「様子はどうだ?」
「はっ!特に変わりはありません」

ドアの向こうから、執事と見張り役の声が聞こえてきて、クリスティーナは息をひそめた。

ガチャリと扉の鍵が開けられ、コツコツと執事の足音が近づいてくる。

ベッドの近くまで来ると、様子をうかがっている気配がした。

クリスティーナが眠っているフリをしていると、やがて足音が遠ざかり、「しっかり見張っておけ」という執事の声のあと、ガチャリと鍵がかかる音がした。

(これでもう朝まで来ないわね。しばらくしたら動き出そう)

夜中の2時。
ついにクリスティーナは行動を開始する。

まずはケイティの様子を見てみたが、椅子に座ったまま机に突っ伏してグッスリ眠っていた。

クリスティーナはブランケットを折りたたんで小さくし、音が響かないようにベッドの横の小窓にそのブランケットを押し当てた。

そしてブランケット越しに短剣の柄で窓ガラスを叩く。

最初は控えめに叩いてみたが、それだとやはりガラスは割れない。

少しずつ力を込めて叩いていくと、最後にガンッ!と大きな音を立ててしまって首をすくめる。

だがおかげで、ようやくガラスにヒビが入った。

クリスティーナはブランケットで手をカバーしながら、ガラスを掴んで少しずつ割り、綺麗に窓枠から全て取り除いた。

(んー、狭いけどなんとか抜けられそうね)

窓から身を乗り出して確認してみる。
下には誰もおらず、今なら下りても大丈夫そうだ。

クリスティーナはベッドの足にロープの端をしっかりと結び、壁にピタリとベッドを寄せてから、ロープの残りを窓の外に投げ落とした。

地面には少し届かないが、かなり近くまで長さがあり、これならいけると頷く。

そのあとはあっという間だった。
クリスティーナは窓から出るとスルスルとロープを伝って、最後は地面に飛び降りた。

(よし!さあ、早くフィルのところへ行かなくちゃ)

クリスティーナは辺りに目を光らせつつ、身を屈めながらもう一つの塔へと急いだ。