「クリスティーナ様」

呼ばれて顔を上げると、扉から静かにケイティが身を滑らせて部屋に入って来るところだった。

「王太子様の様子を見て参りました」
「それで?!フィルは無事なの?」

クリスティーナは思わず立ち上がる。

「ええ。ずっと眠っていらっしゃいますが、呼吸も安定していますし、お顔も穏やかでした」
「そう…良かった」

心の底から安堵して、椅子にペタンと座り込む。

「ありがとう、ケイティ。様子を見に行ってくれて」
「いえ!とんでもない。わたくしこそ、本当に申し訳ありませんでした」
「フィルは、まだあの部屋にいるの?」
「いいえ、別の場所に移されていました。今は反対側の塔の地下の…その…」
「分かったわ。牢屋ね」
「申し訳ありません」
「あなたが謝ることではないわ」

深々と頭を下げるケイティに、クリスティーナは少し考えてから話しかけた。

「ケイティ、できれば食事をしてもいいかしら?それからベッドで横になって休みたいのだけど」
「ええ、もちろんですわ。パンと水しかなくて申し訳ありません。こちらをどうぞ」
「ありがとう」

あの執事が置いていったパンと水を、手枷を付けたままで食べ終えると、クリスティーナはベッドに横たわる。

ケイティが丁寧にクリスティーナの身体にブランケットを掛けた。

「どうぞゆっくりお休みくださいませ」
「ありがとう、ケイティ」

とにかく今は体力の温存に努めようと、クリスティーナは無理にでも眠ることにした。