「あと30分もすれば、楽になりますよ」

声をかけてくる執事を、クリスティーナはキッと睨みつける。

「本当でしょうね?」
「嘘は申しません。ですが睡眠作用が強いので、24時間は眠り続けるでしょう。それよりあなたこそ、嘘をついた訳ではないでしょうね?」

意図することが分かり、クリスティーナは頷いた。

「今、行きます」
「よろしい。さすがはコルティア国王太子妃だ。コルティアは本当に良い国ですね」

何を空々しく褒めるのかと、クリスティーナはグッと奥歯を噛みしめる。

そしてもう一度フィルの顔を覗き込んだ。

「フィル、もう大丈夫よ。ゆっくり休んでね」

小さく呟くと、そっと頬にキスをする。

またしても涙が込み上げそうになるのをこらえ、フィルをソファに横たえると、クリスティーナは迷いを振り切るように立ち上がった。

ツカツカと歩き出すと、執事がうやうやしく頭を下げながらドアへと促す。

クリスティーナは振り返ることなく、フィルを残して部屋を出た。