「まあ、とっても綺麗なガーデンね。お花がたくさん咲き乱れていて、本当に美しいわ」

翌日の朝。
フィルが執事に連れられて国王との密談に向かうと、クリスティーナはケイティと名乗る若い侍女に案内してもらい、城のガーデンを見て回っていた。

「バラもたくさんあるのね」
「はい。バラはスナイデルの国の花なのです」
「そうなの?コルティア国の国花もバラなのよ」
「まあ、そうなのですか?」
「ええ。私達、そんなところも仲良くなれそうね」

クリスティーナが笑いかけると、まだあどけなさの残るケイティは少し頬を緩め、すぐまた真顔に戻った。

緊張しているせいかとも思ったが、どうやら違うらしい。

(何かに怯えている…?)

なんとなくそんな気がする中、クリスティーナはガーデンを抜けて広い庭園に出た。

「ここからお城が一望できるのね」

そびえ立つ白亜の城の全貌に、クリスティーナは圧倒されたようにため息をつく。

「素敵なお城ね。おとぎ話に出てきそうだわ」
「コルティア国の王宮はどんな感じなのですか?」
「そうねえ。こんなにメルヘンな感じではないわね。国のカラーのブルーを所々に取り入れてるの」
「そうなのですね、素敵!見てみたいです」

珍しく目を輝かせるケイティに、クリスティーナも微笑む。

「ケイティもいつか遊びに来て。今度は私が案内するから」
「まあ、もったいないお言葉ですわ」

歩きながら話していると、ふと、城の端の塔が目についた。

「あの塔は?見張り台かしら?」

え?とケイティがクリスティーナの視線を追う。

「あ、いえ。あちらは普段使われていない塔でございます」
「そうなのね」

何気なく返事をして、また歩き出そうとした時だった。

塔の窓にほんの少し人影が動き、誰かがそっとこちらの様子をうかがっているのが見えた。

(え、誰?男の人?なんだか不気味な雰囲気…)

「クリスティーナ様?どうかなさいましたか?」
「いえ、なんでもないわ」

結局大した情報は得られないまま、クリスティーナはなんとも言えない違和感だけを感じて、ケイティのあとをついて行った。