「フィル、見て!海が見える!」

バルコニーに出ると、クリスティーナは興奮気味にフィルを振り返った。

「夕陽がキラキラして素敵。子ども達にも見せてあげたいなあ」
「ああ。いつかみんなで一緒に海を見に行こう」
「ええ!楽しみね」

にっこり笑うクリスティーナにフィルも微笑み返し、優しく肩を抱き寄せてキスをする。

「ちょ、フィル!よそ様のお城でなんてことを」
「あはは!キスくらいで何をそんなに赤くなってるの?」
「だから、なんてことを言うのよ!」

その時、コンコンとノックの音がして、クリスティーナは慌ててフィルから離れた。

「はい」

振り返って返事をすると、失礼いたしますと頭を下げ、執事らしき年配の男性がドアを開けて部屋に入って来た。

「王太子様、お妃様。今宵は国王陛下が晩餐会にお招きしたいとのことでございます。もしお疲れでなければ、ご臨席賜りますようお願い申し上げます」

フィルはクリスティーナに、どうする?と目で尋ねる。
クリスティーナは、大丈夫と頷いた。

先程、謁見の間では会えなかったが、晩餐会には国王の兄も来るかもしれない。
ここでの滞在日数も少ない為、少しでも早くお目にかかりたいところだった。

フィルも考えていることは同じらしく、クリスティーナに頷き返すと、執事に返事をする。

「お招きありがとうございます。喜んで伺います」
「かしこまりました。それでは19時にお迎えに上がります」

では後ほど…、とうやうやしくお辞儀をしてから、執事は部屋をあとにした。