「あっちに逃げた!ヤツを追え!」

「はい!」

 誰かを追いかける指示を出した刑事さんは、私の方へと走ってくる。

「大丈夫ですか?」

 私は差し出されたその手を掴み「は、はい」と起き上がる。

「あ、ありがとうございます」

「あれ、お前……昨日の……」

 私は思わず「き、昨日は、どうも……」と話しかけた。
 ていうか、お前って……。

「こんな所で何をしているんだ?」

「そ、それはこちらのセリフですっ」

 なんでこんな所に刑事さんがいるの?

「見えば分かるだろ。事件の捜査だ」

「はあ……」
  
 なに……? 感じ悪っ!

「それより、ケガはないか?」

「は、はい。大丈夫です」

 刑事さんは私の頭をぽんと撫でると、「すまない。俺はヤツを追わないとならない。逃す訳にはいかないんだ。 気をつけて帰れよ」と早々に走っていく。

「え……」

 今、頭ぽんとされた……よね?

「優しいのかどうか……分からない人だな」

 でも一生懸命犯人を追いかけるその背中が、なんだかカッコよく見えてしまった。

「無愛想……だと思ってたけど」

 本当は……違うのかな。 

 そういえばあの刑事さん……名前、なんだっけ?聞いたのに、忘れちゃった。
 まあ、いっか。……どうせもう、あの刑事さんと会うことはないだろうし。