俺はじっと海をみつめていた。めぐみというこが来た。コップを持っていた。俺の隣に座った。青春の香りがした。
 「どうぞ」
 と、めぐみというこがコップを渡してきた。コップをもらい受けるとき、偶然めぐみということ手が触れ合った。
 「あ、ごめん」
 と、俺。
 「いいですよ。偶然ですし、私は別にいいですし」
 「え」
 めぐみというこは笑っていた。
 「偶然で、同意があり、不快でないなら、大丈夫ですよ」
 俺はコップを持って笑った。
 「ああ、そう」
 俺はコップに入ったお茶を飲んだ。お茶はよく冷えていた。
 「ああ」
 と、俺は息をついた。俺は海を眺めた。雨がどしゃぶっている。波は荒れて、ざぶーんと音がしていた。俺はじっと眺めていた。俺は視線に気づいた。
 「よく降りますよねえ」
 と、めぐみというこのの涼やかな声。
 「ああ」
 「ずっとやまないと、いいですよね」
 「え」
 俺はいぶかしんだ。言い間違いじゃないか。それを言うなら、やむといいですよね、だろう。
 「あ、私、間違えちゃった」
 と、めぐみというこが微笑んだ。俺も笑った。でも、ずっとやまなかったら・・・・・・・。
 俺はお茶を飲んだ。
 「はあ」と息をついた。雨はふりしきる。俺はお茶を全部飲んだ。俺はコップをめぐみというこの反対側に置いた。
 「ストロベリーに松村という人いましたよね」
 「松村?うーん、確かあ、松村奈々とかいったなあ」
 「そうです」
 また沈黙が流れた。
 「他に何か好きなこととかありませんかあ?」
 うーん。俺は考えた。俺は毎日ただ時間が過ぎていくだけだった。何もやる気がなかった。好きなことなんてなかった。俺は黙り込んだ。
 雨はしきりなく降って、屋根に当たって音をたてていた。
 「松村さんって、ウルフちゃんとかやってるし、近所の女子中高生に、人気なんじゃないですか?」
 「え、そんなことねえよ。「ばい菌」なんて言われてる」
 「なるほど。納得します」
 「え、ひどいなあ」
 めぐみというこは笑った。冗談だろうがちょっとひどくね。
 「恋の病に陥らせるばい菌」
 「え」
 恋の病に陥らせるばい菌。それって・・・・・・。
 雨はざあざあ降っていた。