「あのう」と女性の声がした。振り返ると、海の家の中の女性が呼びかけていた。20くらいだろうか。髪はストレートで後ろでくくっている。背が高く、やせている。
 「休みませんか?」
 と、女性はいった。
 「あ、いや。いいよ」
 と俺は言い、海の方を向いた。海の家を利用する金も何もない。
 降りしきる雨の中、俺はつったったまんまぼーっとしていた。
 「あのう」
 と、また聞こえた。俺は振り返った。
 「大丈夫ですか」
 と女性。俺はそんな言い方久々にされたと思った。売れない作家など、ヤンキーやくざ不良扱いだ。不審者で通報されることもある。
 「あ、ああ」
 俺は片手を後頭部にやった。
 「びしょびしょですよ」
 と女性。俺は久々に人のあたたかさに浸った気がした。
 「ああ、別にいいんだ」
 「風ひきますよ」
 「ありがとう」
 「あのう、休みませんか?」
 「ごめん。お金なくて」
 「いいですよ」
 「え」
 「お金はいいんで、雨宿りだけしてください」
 「ええええええええええええええ」
 「そんなあ、悪いよ」
 と、俺。
 「いいんですよ」
 と、女性はいった。
 「ああ、じゃあ、お邪魔しようかなあ」
 「はい、どうぞ」
 「はあ」