「大したことじゃないんだけどね」


そんな前置きをして、向井先輩は話し始める。


「仮面被って…みんなの人気者を演じることに、最近疲れを感じているんだ。本当の俺とは掛け離れた…キラキラした俺」

「キャーキャー言われてさ、悪い気はしないんだけど。演技だからさ。学校にいる間、ずっと演じているとさ…どうしても疲れるよね」


ポツリポツリと、言葉を選ぶように零す先輩。

見たことのない表情…。
本当の先輩が、悲鳴を上げているような…そんな感じ。


「…美久ちゃんはさ、俺のこと全く興味無いでしょ」
「……はい」
「やっぱり。…でもそれがね、逆に良かったの」


私の隣に並び、顔を覗き込むように見てくる。
先輩は…無理をして口角を上げているような表情をしていた。


「今日は美久ちゃんが来てくれて良かった。本当は俺、誰かに話したかったのかも」


また私の頭に手を置き、優しくポンポンと叩く。


「また、会えるかな」
「……雨が降れば、また来ます」
「…うん、ありがとう」


次は無理をしていない、自然な笑顔を浮かべた先輩。

「じゃあ、またね」

そう言って昇降口の方に向かって行った。



「……」


良く分からないけれど。
触れられた部分が、何だか熱を持ち始めた気がした。