私は、市内唯一の進学校に通う2年生。
クラスでは目立たない方で、勿論、男子とも縁が無い。
友達と馬鹿を言いながら過ごすだけの毎日だったから…向井先輩に頭を触られた時、本当にびっくりしたんだ。
初めての経験で、何故か分からないけれど心臓がドキドキした。
「美久、聞いて!!」
「どうしたの、梓」
友達の山寺梓。
高校に入学してすぐに出会い、今ではいつも一緒にいる大切な友達。
「向井先輩がね、昇降口のところに立ってたから手を振ってみたの!! そしたらね、振り返してくれたんだよぉ!!」
「そ、そうなんだぁ。良かったね!」
「もう無理、今日が命日でも良い!!」
「それは大袈裟だよ…」
実は梓…向井先輩に片想いをしている。
遠くから見るだけで幸せなんて言って、そんなにアプローチはしない。
今みたいに手を振ってみたり…そんな程度。
「本当にかっこいい...。向井先輩、彼女いるよねぇ」
「どうだろうね…」
梓、こんな感じだから。
この前起こった向井先輩との出来事については話さず、私の胸の中に留めている。
…先輩に口止めされたというのもあるけれど。
頭に触れられたなんて言ったら…梓は発狂してしまうに違いない。
「キャー!! やばい、向井先輩……!!」
騒がしい教室の窓際。
その声につられて梓と窓際に移動すると、笑顔で手を振っている体操服姿の向井先輩が居た。
「うっわ……鼻血出そう……」
「梓……」
爽やか。
そんな一言がぴったりの向井先輩。
だけど私は、どうしてもあの時の何とも言えない表情の方が、少し気になってしまっていた。