向井先輩は授業をサボり、私を連れて屋上に来た。

登校時に降っていた雨は止んでおり、黒くて厚い雲から少しだけ太陽の光が差し込んでいる。


「あんな集会の後で授業なんて受けられないよ」


そんな言葉を零す向井先輩。
勉強ができる真面目な先輩は、もうここには居ない。



「ごめんね、美久ちゃん。本当にごめん。俺、山寺梓が元凶だって言ったけれど、元を辿れば俺なんだよな。あの日、見られたくない姿を見られた時に終わらせておけば…。俺が、雨が降ったらまた来てなんて言わなければ…美久ちゃんは山寺梓を始め、女子たちからいじめられずに済んだのに…」


涙をポロポロと流しながら言葉を零す。
そんな先輩の姿にまた私も涙が流れ始め、首を振りながら言葉を発した。


「先輩のせいじゃないです。私だって、また雨が降った日にあの場所に行けば、先輩がいると思っていましたから…。いつもと違う先輩の様子にが気になって、先輩の心を晴らせたいと願った私が、間違いなくいました。本当に…」



どちらからともなく、抱きしめ合う…。
先輩も私も、体が震えてどうしようもない。


「私、先輩の心を晴らしたいです」
「…もう、晴れてるよ。素の俺を受け入れてくれる美久ちゃんが…俺の腕の中に居てくれるだけで、俺の心は晴れだよ。逆に俺は、美久ちゃんの心を晴らせたいんだけど」
「私だって…先輩がいてくれたら晴れです。もう良いの、教室に行けなくても…先輩が居てくれたら…」



今が何時か分からない。
けれどそんなこと気にならないくらい、私と先輩はいつまでも抱き合い、沢山の言葉を交わし合った。





やがて涙は枯れ、2人の心にかかる雲が1つ残らず消え去った時…



空を覆っていた黒くて厚い雲も消え去り


空には大きな、大きな虹が架かった…。