「…美久ちゃん、ごめんね」
「いえ…先輩のせいではないです」



限界を迎えた私。

遂に、学校にすら行けなくなってしまった。




向井先輩は学校帰り、毎日私の家に寄ってくれる。

学校に行けなくなってからは、近くの公園に移動してお話をする毎日。

それが今の私の、楽しみになっていた。




「…最近、誰にでも優しくして、いつでも笑うことを止めたんだ。美久ちゃんをいじめる奴らに、俺も無理する必要は無い」


そう言った先輩はまた、退屈そうな…気だるそうな…悲しそうな…そんな、何とも言えない表情をしていた。



私の心にも雨が降っているけれど。

先輩の心も……前と変わらない。
今もまだ、雨は降り続いている。



「そんなことしたら、先輩の人気が無くなります」
「良いんだよ。無理してまで得たい人気なんて無い。…寧ろ、楽になったんだ。何というか…素の自分で、居られる、みたいな」
「……素で居られるなら、良かったです。先輩は、無理をし過ぎていましたから…」


先輩の顔を見て、そっと微笑んでみる。
私が微笑むと、先輩も微笑んだ。


「美久ちゃん。辛いかもしれないけれど、全校集会がある日、学校に来れないかな。…俺の言葉、聞き届けて欲しい」
「…そうですね。教室には行かず、集会の時だけ後ろに居らせてもらえるか…先生に聞いてみます」
「……うん、ありがとう。生徒会長の権限を使って、ステージの上から…美久ちゃんをいじめるクズ共を牽制してやるから」


ぎゅっと抱きしめてくれる、先輩。

伝わってくる体温に…心が落ち着く感覚がする。


「…先輩。そんなこと言ったら、先輩のことが好きな人たち、泣きますよ」
「……別に良いよ、勝手に泣けば。俺は、美久ちゃん以外に興味無いから」


目と目を合わせ…ゆっくりとまた、キスをする。

そっと触れた唇が温かくて、優しくて。
涙が零れた。


「美久ちゃん、好き」
「私も…好きです。向井先輩」
「……やっと、言ってくれたね」


嬉しそうに微笑み、またキスをする。

そんな先輩の目からも、ゆっくりと一筋の涙が零れた…。