元々、過去の聖女に抱いていた気持ちは憐憫と感謝、そして少しの友情だった。
 命と引き換えに邪竜へと堕ちた自分を浄化するために遣わされた、身寄りのない、憐れな少女。
 生きている彼女と話した時間はそう多くはなかったけれど、ともに火山の溶岩の中で眠りについたことで、自分は聖女と運命共同体なのだという意識が芽生えていた。
 ずっと聖女とともにいられるなら、このまま眠っていてもいいかと思い始めていた。当の聖女がどう思っていたのかはわからないけれど。
 ……いいや、生まれ変わりたかったのだろう。聖女は次の生へと歩を進めようとしていたから。
 人間は生まれ変わるものだ。この世界にも、それこそ異世界にでも転生しようとする。
 死んだ魂のまま漂っていようという人間はいない。
 自分は聖女といたくて、彼女を必死に引き留めた。
 だが、彼女の魂は次の生を願った。
 さんざん悩んだ後、自分は折れて、それを許した。
 自分のために命をなげうった聖女の、唯一の願いを叶えてやりたかったからだ。
「しかたないなあ」
 彼女の魂はそう笑っている気がした。
 だから、代わりに約束をした。言い出したのがどちらだったのかは忘れた。
 覚えているのは、聖女の魂はそれを了承した、ということだ。