もう戸惑いの表情はなかった。

 ふわっと笑みが顔に広がる。

 驚いたのは颯士のほうだったらしい。

 目を丸くした。

 意外だ、と思ったのだろうが、その表情も数秒後には、緩んでいた。

 やわらかな笑みに変わる。

「ありがとう。それなら、美璃」

 返事のあったそのあと、するっと、大きな手の感触が美璃の頬に触れた。

 美璃の頬を、すっぽり包み込んでくる。

 どきっとしたけれど、美璃の胸に浮かんだのは喜びだった。

 これほど想ってもらえて、自分で言ったように、幸せしかない。

「義兄の兄でもなく、偽装彼氏でもなく、本当の恋人にしてほしい」

 美璃と至近距離で視線を合わせて、まっすぐに言われたのは、告白。

 慈しむような眼差しで言われれば、答えなんて決まっている。

「喜んで……!」

 ふわっともう一度、笑みが広がった。

 答えは手放しで幸せいっぱいな響きになる。

 そのまま数センチ顔が寄せられ、くちびるが触れ合った。

 まるでこうなるのが自然だったような、優しいキス。

 誰よりも自分を想い、行動してくれるこの優しいひととこれからを過ごせることに、美璃の胸は、いっぱいに満たされていった。


(完)