「だけどあの事件があった。ずるい俺は『絶好の機会だ』と思ったんだ」

 少し言葉を切り、そのあと、続けられた。

 美璃の胸がまたひとつ跳ねる。

 すべて理解したのだ。

「それで偽装彼氏なんて持ち掛けた。打算的で本当にごめん」

 その通りのことを、颯士が言う。

 最後に再び、謝られた。

 美璃は怒る気なんて、まったくないというのに。

「……ずるくなんて、ないです」

 今度は、なにか言おうと思うことはなかった。

 口から、するっと自然に出てきたのだ。

 美璃が言った言葉に、颯士は美璃を見つめる。

 視線が合って、美璃ははっきり理解した。

 この形はイレギュラーではあったけれど、ずるくも、間違いでもなかったのだと。

「私をそこまで想ってもらえて、幸せです。私も、颯士さんにそう接してもらえて、嬉しかったから」

 だから素直な言葉にする。