「悪いな、美璃。お前とはもう付き合えない」

 今まで見たこともないような冷たい視線を美璃に向け、きっぱり宣言したのは美璃の彼氏……今となっては元カレの中原(なかはら) 冬治(とうじ)

 艶やかな茶髪を襟足まで伸ばした冬治は、すらっとした体躯も相まって、大変見た目がいい。

 いわゆるイケメンである。

 しかしそれもそのはず。

 彼の職業はモデルなのだ。

 イケメンでなければ務まらない仕事である。

 大手芸能事務所【ヴィリオン】に所属しており、世間ではそれなりに人気もある。

 なのに今、その顔には、非常に冷たい表情が浮かんでいた。

「……なんで?」

 美璃は詰まったようになった喉から、なんとか言葉を絞り出した。

 でも薄々、わかっていたのだ。

 冬治の連絡は最近、途切れがちだった。

 会うのも二週間に一度ほどになっていた。

 大学からの付き合いである冬治と、これほど距離ができてしまったのなら、きっとなにかあるのだろうと思っていた。

 最悪の場合、新しい好きなひとでもできたのかもしれない、と思っていたのだが、現実は『最悪』以上のものであった。