がばっと勢いよくしがみつく。

 苦しげながら、少し甘えるような声も出た。

 しかし数秒後、すぐに気付いた。

 普段、美璃を抱きとめてくれるひととは感触が違う。

 まず、やわらかくない。

 体はしっかりと硬く、厚みがあった。

 おまけにふわりと漂ったのも、爽やかな柑橘系の香り。

 知らない感触だけど、その体からは、優しいぬくもりが伝わってくる。

 どきん、と美璃の胸が跳ねた。

 これは、もしかして……。

「美璃ちゃん? どうしたの?」

 上から降ってきたのは、戸惑った声。

 もちろん美璃が思ったような、姉の声ではない。

 低いながらもやわらかな響きを帯びた声は、姉のものではないが、一応知っているものではある。

 ただし、これほど至近距離で聞いたことは今までない。

「ひゃぁぁ!? お、(おお)義兄(にい)さん!?」

 かっと体が熱くなった。

 驚きに変な声が出てしまう。

 目を真ん丸にし、もはや涙も途切れた美璃の肩に、あたたかいものが乗った。

 大きな厚い手が、美璃の肩を優しく包む。

「ごっ、ごめんなさい……!」

 美璃はやっと謝った。

 美璃の肩を抱いて、そっと支えてくれた相手……。

 姉の夫……の、兄。

 普段「大義兄さん」と呼んでいる、義兄の兄である、百野(びゃくの) 颯士(そうし)に向かって。