「彼氏役になるんだからね。それらしくできるようにならないといけないだろ?」

 美璃の反応に構わず、颯士はさらりと言う。

 言われて、美璃はやっと気が付いた。

 そうだ、彼氏役になってくれるためだ。

 板につくためには、当日いきなりでは難しいのだろう。

 そして、もうひとつ気が付く。

 今度の気付きは、もう一度どきんと心臓を高鳴らせた。

(いや、それって、パーティーの日まで、本当の彼氏みたいに過ごしてくれるってこと!?)

 しかしそれしかなかった。

 美璃の心臓はもう、速くなりっぱなしだ。

 顔もきっと赤くなっただろう。

 動揺する美璃に構わず、颯士はエスコートするように美璃を店内へ促して……。

 踏み込んだ店内は、非常に煌びやかなところだった。

「いらっしゃいませ。百野様」

 黒いスーツを着た店員の女性が近付いてくる。

 颯士をひと目見ただけで、名字を口に出した。

 つまり、顔パスされるほどの顧客らしい。

(大義兄さんって、こんなお店に通うような方だったの……!?)

 美璃の頭が、くらっと揺れてしまう。

 確かに持ち物がいつも素敵だなとは思っていたけれど、裏を返せばその程度の認識しかなかったのだ。