今度は困惑どころではなかった。

 目を見開いてしまう。

「え、……えっ? 颯士さんが!?」

 言葉は焦った。

 まさかこんな提案をされるとは思わなかった。

 しかし颯士はもう、いい案だと思ってしまったようだ。

 無理に笑ったという表情ながら、微笑の形に顔を動かして、言った。

「一名まで同伴可能って書いてある。美璃ちゃんだけ行かせるのは心配だし。もちろん、そのときだけの偽装彼氏でいいんだ」

 意外すぎる提案をされる。

 でもそれは、美璃を大切にしてくれるからこその言葉だ。

 それに……そうしてもらえば、どんなに心強いか。

 幸い、冬治や麻耶は颯士のことを知らない。

 彼氏だと言えば、そのまま信じるだろう。

 それなら、きっと通用する。

 ごくっと喉を鳴らしてしまった。

 あまり綺麗な感情ではないけれど、こんな仕打ちをされたのだ。

 少し見返してやりたい、なんて気持ちもある。

 だから悩んだのは数秒だった。

「颯士さんが……いい、なら……」

 少しのためらいはありつつも、返事をする。

「いいに決まってる。じゃ、二週間後だな。予定を空けておくよ」

 颯士が微笑で受け止め、宣言した。

 そのまま二人は帰路に就く。

 マンションまで送ってもらって、颯士は「おやすみ」と車で去っていった。

 美璃はしばらく、ぽうっと立ち尽くしていた。

 本当に思いもよらないことになった、と、ここまでの怒涛の展開を噛みしめたのだった。