しかしすぐに、はっとした。

 こんな、メイクも崩れた顔で、しかも近い距離で見つめ合ってしまった。

 いろんな意味で恥ずかしい。

 でも颯士の提案は魅力的だった。

 確かに気持ちがまぎれるし、気分転換にもなるだろう。

 このまま一人の自宅に帰るより、ずっと良いと思った。

「では……少しだけ、甘えます」

 素直に受け入れる返事をした美璃に、颯士は、ふっと微笑んだ。

 優しい表情が、さらに笑みで崩れる。

 またしても美璃の視線を引き寄せてしまう表情だった。

「ああ。せっかくだから、海があるほうへ行こうか? 夜だから、あまりはっきりとは見えないだろうけどね」

 そのとき信号も変わった。

 颯士は前に視線を戻し、車を発進させる。

 ここまでと違う、このあとのドライブのことなんて話になる。

 美璃もただ、相づちを打って、受け答えした。

 気持ちはすでに、もう何ミリか落ち着いていた。

 これほど気遣ってもらえて、素直に嬉しいと思う。

 たとえ、義理の兄だからこれほど親身にしてもらっているとはいえ、嬉しさと安堵で胸がいっぱいになることに、なにも変わりはなかったのだから。