般若のような表情でつかみかかってきた世田さんだが、勢い余ってヒールがずれ、足首から床について転げてしまった。

「うっわ、キレイな女性かと思ったらとんだヒス持ちかよ」
「いくらパッと見良くても感情の起伏激しいの無理だわ」
「わ〜無様」

遠巻きにする人たちが、ヒソヒソ囁いてる。
世田さんの耳にも届いているだろう。
コケた姿勢のまま、痛みと嘲笑にのたうち回っている。

その世田さんに、涼晴さんが極寒から持ち出したような冷え切った一言を降らせる。

「……知性が素朴な人だ……」

キツいな。
オブラートに包んだ表現が涼晴さんらしいけど、「愚か」と軽蔑しているのだ、これは。

「くっ、ギィィィィ」

 憧れを持っていた男性に蔑まれ、世田さんは床で悔しがって悶える、その姿に引いたのかそばにいる康二さんさえ手を貸さなかった。

「もうここでの用は終わった、抜けさせてもらうよ。大切な人との重大な用事があるんでね。行こう、帆夏さん」
「え。は、はい」

握り合った手を引かれて、私は涼晴さんと会場を後にする。