「ほら、俺たち付き合ってるわけだし今日はこのあと久々に食事しよう」

付き合ってない! もう付き合ってないよ!?
そういえば別れるって言葉はなかったけど、あれで付き合ってるわけないでしょう?

「私、もうあなたとは……」
「いいじゃん? 水臭いやつだな」
「……やっ」

「ちょっと、いいかな」

私と康二さんの間に洗練された手が入って、そのまま体ごと、涼晴さんが割ってきた。

「君との食事には行かせられないよ。帆夏さんは、僕との先約があるんだ。なにせ、僕の大事な人だから」
「涼晴さん!」

絶対触れさせてなるものかと、庇うように抱き寄せられる。
こんな、人前で、涼晴さんの立場が……

「ちょ、おま……!?」
「今回のシンポジウムの主催側のものです。」

優雅に名刺を差し出され、康二さんは硬直した。

「専務……御曹司……」
「彼女を傷つけたことがあるくせに、僕が大事にする彼女に用があるのかい? 君は」
「ぐ、うあう……」

目を白黒させてる康二さんの後ろに、世田さんがやってきた。

「ねえ康二くん……って、神山さんと……北園の御曹司!?」

憎悪と嫉妬の眼差しを向けてくる世田さんへ、涼晴さんが冷徹に告げる。

「世田さん、君の研究だけどあれが盗用だと僕は気づいている。つまり北園グループの知るところになるということだ」
「な、なっ! 神山……帆夏……っ」
「世田さん! 私がした配合作業のノウハウに気づかなかったのね、それがない限り、あなたはあの素材で論文ほどの性能を引き出すことはできない。行き詰まるしかなかったのよ、しょせん人から盗った研究では」
「く……ぬ、こ、神山ぁ!」