世田さんの仰天を流して、私は会場をゆうゆうと眺めた。
前の方の席に康二さんや研究所の面々が固まっていた、私がいるので驚いてるみたい。

「しがない元研究員ですが、同分野をやっていたので質問を。試験データですが、確かに中期までは期待される数値が出ていますが、直近では下がっていますね。この値なら有用性が減少すると考えますが」

世田さんの講演を聞いてわかった。
私がどこにも残してなかったコツ──超音波振動を与えながらの試料混合に彼女は気づかなかったのだ。
涼晴さんの質問でも、通常の作業でいいと言いきった。

「当初の性能を持つ試料を、途中から再現できなくなったんじゃないですか」
「ぐ……それは……できて……」
「できているなら、この他もしていて当たり前の追加試験のデータが無いのはおかしいです」
「ぬ……くぅ……」
「再現性がないものを、論文にしたんですか」

唇を噛み締めて悔しそうに世田さんは黙りこむ、そのまま時間切れで彼女は研究者として赤っ恥をかいた。
失ったものに対してわずかだけど、世田さんをやりこめていくらか晴れた。

一幕の後、中休みに入った場内で、私に声をかけてくる人が。

「おい、帆夏。久々だな……、田舎に引っ越したって聞いたけど、空気か食べ物あってたんじゃないか? 綺麗に……なったな」

話しかけてきたのは康二さんだった。
今さらなんなの……?