「いらっしゃいませ……ぇ」

え!? きたの?
北園さんの訪れに驚いたのは昨日の今日だからだ。
御曹司は暇じゃないでしょ? 連日で通う? 私、来てもらわなくていいし。

「お席はいかがしますか」

前と同じ、真ん中の席を選ぶつもりになってた私に対して北園さんは。

「ではカウンターを」
「かっカウンターですか」
「はい、なにか不都合がありますか? あのカウンター席、破損でも?」

いや……不都合あるでしょう距離が……近いじゃないですか。

「……別に壊れてないです。ご希望なら……どうぞ」

しぶしぶ案内して私は北園さんがついたカウンターの奥に戻る。
北園さんが座ってまっすぐ前を向けば、そこには私。
き、きまずい。

「ご注文はっ」
「……ああ、そうだな……」

アクリルのメニュースタンドを大慌てで両手持ちして、御曹司は私に注文を入れる。

「今日は紅茶を」
「かしこまりました」

紅茶の用意をはじめたけど、痛い、なんか視線が絡みついて刺さる。
なみなみと揺れる紅い波、立ちのぼる香りを吸った北園さんが目を見張った。

「目立つ香りですね」
「マンゴーとヨーグルトのフレーバーです。紅茶はよく飲むから、好きな茶葉を仕入れてしまいました」

目を閉じて、いま一度香りを確かめた北園さんが紅茶を口に含む。

「……おいしい」