おばあちゃんの趣味の別宅、その縁側。

持ってきたクッションを積んで、うちわ片手に寝そべる。
湯上がりの体には、飴色にツヤツヤ照り輝く床が気持ちいい。
春と夏の境。
蛍を追うようにうちわを舞わせ、昼間のことを回想する。
 ──惜しかったかな。
それくらいは思うのよ。
お金に目をくらませて決めたくないから尋ねもしなかったけど、御曹司じきじきのお呼びなら給料待遇は良かっただろうし。

貯金を切り崩してばかりの経済状況で意地張ったなって。
カフェをひらくまでだって、頑張りはしたけど、おばあちゃんの地縁と人徳のおかげで格段に助けられた、ただ恵まれていた。
力を貸してくれた人たちへの感謝なら、赤字を流すだけじゃなくちゃんと稼げるようになるか、じゃなきゃ北園さんに言われるがまま、彼の用意してくれたポストにつくべき。みんなそれで安心して喜ぶって、わかっている。