やっぱり! 御曹司だ! 北園グループのお世継ぎだ! どセレブじゃん! それがこのボロ……えっと人気のない商店街のカフェに!?

「だから見込んだ人材を引き抜くくらい容易い。僕は北園自動車の次の戦略として、従来の金属部で入れ替えていきたい箇所があって。そのための新素材に、あなたの研究あの発展形が欲しいんです。帆夏さん、僕の会社の研究開発部に来てください」

すごくスケールの大きい、良いお話だけど。
研究。私の失ったもの。
また、研究の道に戻ることを考えると、心の端っこにつねりあげられたみたいな疼痛がする。これは、だめそうだ……奪われた研究を考えずに、できそうにない。
私は、もう研究者としては死んでしまっていた。

北園さんは、つかんだ手を大切そうに、私を熱心に誘う。「君が必要なんだ」とか「僕のところに来て」とか、まるきり恋の口説き文句と同じことを言う。
でも、私はお断りした。

「どうして……」