研究とまったく別の畑だけど……だからこそかな? 私は元々、鉱物標本が好きだった。

石屋さんを見に行ったり、ミネラルショーを渡り歩いたり、SNSで石友さんとやりとりして、鉱物を眺めながらお茶をする場所があればいい、という思いがあった。
「カフェがしたいです」というふんわりしすぎた願望は、鉱物標本を愛でる場所をつくりたい気持ちからかも。
 
開いたカフェは『鉱物カフェ』をかかげている。
これまで、私が自分の癒しやご褒美に買い集めていた鉱物標本のなかで、特に見て楽しめるものを飾った。
店内のそこかしこで、ガラスケースやガラスドームに入った結晶が煌めく。
 
私としては会心のデキなんだけどな。
鉱物カフェは、田舎では奇抜すぎたみたい。
近場に住む石友さんが来てくれたくらいで、あとはほとんどお客さんがいない。

叔父さんは「しばらく収支のマイナスは気にしなくていい」と言ってくれたけど、猶予期間だ。
生計をたてることができるくらいにならないと、手を引かれるはず。

しかし笑っちゃうくらい今日もお客さんがこない。
満席になったこのお店はどんなかしら、一度くらい、そういう機会が来てほしいな。

はぁ、と溜めた息をカウンターへ落としていたら、店の前で車のドアの開閉音がした。
商店街だし、車を出てすぐのところに駐車されるのは迷惑。
立ち上がって文句をつけようとしたら、なんとお店のドアが開いた。

お客さん?
というか待って、このお客さんすっごく、すっごくイケメンだ。

「ここの、オーナーの神山さん?」

名指しされてコクコクうなずく、その私へ距離を詰めた絶世のイケメンが、ひしっと手をとってきた。