「羽村さん、わたくしとお付き合いを前提にお友達から始めて下さいませ!」
せー
せー……
静まりかえった廃工場内に、わたくしの声が響き渡りましたわ。
しばらくして、どよめきの後に何人かの男子がゲラゲラと笑うのが聞こえてきましたの。
「こっ、こいつ羽村さん相手に〜!」
「いや、チューボーと付き合うのはないだろ」
「早く家帰んなよー!」
笑っていなかったのは、粟嶋やわたくしを連れてきて下さった陽二さんと、羽村さんぐらいでしたわ。
後の人たちは何だかニヤニヤと……。
でもわたくし、全然引くつもりはありませんでした。
だから、ジッと羽村さんの様子を見ていました。
すると、
「お前ら、それくらいにしろ」
そう言って、羽村さんは座っていた机から降りましたの。
そしたら途端に、その場はシーンと静まりかえりましたわ。
さすが、不良グループの『頭』さんともなると、皆さんしたがわれますのね。
その事に関心していると、いつの間にか羽村さんはわたくしの前に立っていて、わたくしの心臓はドキドキと高鳴ったのです。
「お嬢……確か円城とか言ったな」
「美羽、と呼んでください」
「……美羽、とりあえず家に帰れ。そんで飯食って寝ろ。そうすりゃ、俺の事なんてすぐ忘れる」
そう、言われてわたくしは思わず固まってしまいました。
断られるのは想定内でしたし、それでも引くつもりはなかったのですが。
まさか、忘れろと言われるとは思っていなかったのです。
「羽村さん……」
「背伸びしたくなる気持ちはわからなくもないが、何も俺である必要はない」
そう言って、羽村さんは背を向けました。
「そこの、美羽の保護者……悪いが早く連れて帰ってやってくれ」
「えっ……」
「承知しました」
粟嶋が『さ、お嬢様』と私をうながしました。
困って陽二さんを見ましたが、彼の目も仕方ないという風に見えました。
わたくしは……
「また来ます!」
そういう事しか出来なかったのです。
こうして、わたくしは羽村さん達のたまり場を後にしたのでした。