「それでね!その去ってゆく後ろ姿がとても素敵でしたの!」
興奮冷めやらぬわたくしに、夏乃子ちゃんは『へー』と簡単な相づちを打っているのだけど、今のわたくしにはそんな事はどうでもよくって。
「『はむら』さん、とおっしゃるみたいなの!」
と、行ったその時、わたくしの背後で
「あ?羽村ぁ?」
と低い声が響きましたの。
夏乃子ちゃんのお家でこの様な声音の主は、お兄様の玲(れい)さんしかいませんので、
「お兄様!『はむら』さんをご存知なのですか!?」
などと、思わず食い気味に聞いてしまったわけです。
だって、わたくしからしましたら、少しでも情報がほしいわけですし。
しかし、わたくしの質問に心底嫌そうな表情を浮かべた玲さんは、『噂くらいしか知んねぇ』と言いながらリビングを去っていかれました……。
「もー!玲ちゃんったら!」
「いいの、気にしないで」
同じ『不良』仲間の玲さんが、噂を知っているくらいですもの、きっと探せばすぐに見つかるはず!
わたくしは、そう考えてとても嬉しくなりましたの。
次の日からわたくしは、白華中学の授業が終わってすぐ、蘭海高校の校門で『はむら』さんを出待ちする事にいたしました。
ところが、待てど暮らせど、あの鮮やかな赤い髪のお方はみつからなかったのです。