「ここが、不良の巣窟で有名な蘭海高校ですのね……!」

今、わたくしの目の前にある校門は色とりどりのスプレーで彩られていて、まるで絵画のよう……!
道に散らばる空き缶や、ゴミくずすらも、わたくしの胸の高鳴りを止める事は出来ないの!

「美羽お嬢様、お写真でも撮りましょうか?」

わたくしに声をかけたのは、専属執事の粟嶋。いつでも冷静な彼の黒髪はきっちりと綺麗に後ろへと整えられていて、乱れたところを見たことがないわね。

「そうね!とてもいいアイディアだわ、粟嶋」

わたくしは自身のスマートフォンを取り出すと、粟嶋に託して、わたくし自身は校門の真ん中に立ってとびっきりの笑顔を浮かべましたの。

「行きますよ。3・2・1―――」

撮影ボタンが押されるその瞬間、後ろから誰かが走ってくる足音が聞こえて、わたくしはその誰かにぶつかってしまったの。

「あっ」

わたくしがよろめいたその時、さっと肩に腕が回され、どなたかに支えられたのが分かりましたわ。

「っと、わるい」

支えてくださった方を見ようと見上げると、初めに目に飛び込んできたのは真っ赤な短い髪。その強烈なまでの印象に、わたくしは思わずつぶやいてしまったの。

「……綺麗」
「あ?何がだ?どうでもいいが、こんなとこ突っ立ってんじゃねぇよ。邪魔だ」

真っ赤な髪の人はそう言いながらもわたくしを真っすぐ立たせてくれた上で、急いでどこかへ走り去ってしまって。

「ちょ、羽村さん!待って下さいよ!」

そのすぐ後を明るい茶髪の人が追いかけて行ったのです。

「お嬢様、大丈夫ですか?」

慌ててかけよってきた粟嶋も目に入らず、わたくしは走り去ってゆく赤い色をぼんやりとみておりましたの。

「『はむら』さん……」



―――そう、それこそが、わたくしの不良さんへの初めての恋心でしたわ。