葵生は何も言えずにいる私の頬にそっと触れた。


「愛芽が好き」


その瞬間、息が出来なくなるほどに、胸がギュッとした。

夢を見てるのかと思った。

葵生の触れた頬から伝わる熱が、これは現実だと伝えてくる。


今までに見たことのない、葵生の真剣な表情。



「本当は、席替えの前から愛芽の事見てた」


「……え?」


「教室では全然笑わないし、無口で大人しい子だなと思ってたけど、廊下で友達と話してる時いつもめちゃくちゃ笑ってて…可愛い、って思ってた」


知らなかった。廊下で佳奈ちんと話してるの、葵生が見てたなんて。


そんな時から私の事、気にかけてくれてたなんて。


本当に、私なんかを……






目尻が熱くなって、涙が溢れた。


「愛芽…?」


私の涙に、少し困惑しながらも葵生が涙を拭ってくれた。

私は葵生のその手をとった。


「私も…私も、葵生が好き。初恋だよ」


そう伝えた瞬間、葵生は嬉しそうに笑った。


「ずっと暗闇にいた気がしてた。でも、愛芽が俺に色をくれた」


「私も…‥自分に自身がなくて、毎日がモノクロだった。でも、葵生に出会って変わった」


気づけば小雨だった雨が止んでいて、傘を閉じて空を見上げるとくっきりと虹がかかっていた。


「虹だ……綺麗」


「な、雨も悪くないだろ?」


「うん、きっと…雨が降るたびに今日を思い出す。葵生、大好きだよ」


そう言って葵生に笑顔を向けると急に葵生は私を抱きしめた。

私の小さな体は葵生の体にすっぽりと収まってしまった。

「キス、しても良い?」


「……聞かないでよ」


すると、葵生の整った顔が近づいてきて、私はギュッと目を閉じた。

2人の唇が触れ、好きな人との初めてのキスに私の心臓はもう悲鳴をあげていた。

目を開けると、葵生はいつもの意地悪な顔で私を見て「愛芽、可愛い」と笑っていた。


「……ばか。」


「大切にする。絶対」


「うん。私も。これからも、たくさん思い出作ろう」



大嫌いだったはずの梅雨の季節に……大好きな人に出会えた。

雨が降らなければ、あんなに綺麗な虹は見れなかった。


大嫌いだったはずの梅雨の季節。


それはモノクロだった私たち2人の景色に色を付けた、幸せの季節でしたーーー。