あの席替えの日から私たちは周りには秘密で放課後よく2人で残って話すようになった。


「愛芽って頭良さそうだと思ったけど案外そうでもないよな」


「それ言ったら葵生だって、クールかと思ったけど結構イジってくるよね」


お互いに名前で呼び合うようにもなって、今ではとても仲が良くなった。

佳奈ちんの次に出来た友達だ。

というか、私の方は完全に恋しちゃってる。

告白する勇気なんてもちろんないから一生この気持ちは伝えるつもりないんだけどね。


「俺がこんな風にいられるのは、愛芽だからだけど」


不意に発せられたその言葉に期待したくないのに勝手に喜んでしまう自分がいる。


「そう、なの…?」


「俺、親の再婚で母親について行ったけど新しい父親との間に弟と妹できて、みんな優しいけど、なんか居場所なくなった気がして…」


そう言いながら、葵生は時々みせるあの悲しそうな表情をしてた。

そういうことだったんだ……

だから、放課後もすぐに帰らなかったんだ。


「学校に来るのもだるかったけど、愛芽がいるから今は結構楽しみ」


「そんな事言ったら普通の子は勘違いするからね」


「愛芽は普通の子じゃないわけ?」


「私は特殊なのです」



なんだそれ、なんて言いながら笑う葵生の笑顔が嬉しくて、でもこのままの関係なのも辛くて胸がギュッとした。


「葵生はさ、優しいよね」


「何、急に」


「お母さんの再婚、嫌じゃなかったの?」


「ん…まぁ、やっぱり母親にも幸せになってもらいたいし」


「うん、だよね。そんな優しい息子の事を大切に思ってないわけないじゃん。可愛いに決まってるじゃん。葵生が心を開いてくれるのをきっと待ってると思うよ」



葵生が私にだけ話してくれた事が嬉しくて、葵生にもっと幸せになってほしいと思った。

もっと、葵生には笑っていて欲しい。


「……あんがと。」


滅多に見せない、照れたような顔。

母性本能ってやつがくすぐられてつい、無意識に葵生の頭をポンポン、と撫でてしまった。


すると私の腕を葵生に捕まれ、グッと体を引き寄せられた。

距離がグッと近くなる。


ドクン、ドクンとうるさくなる心臓。葵生の方まで聞こえそう。


「愛芽のくせに、生意気」


意地悪なその笑みは悔しいほどにカッコよくて。


「ち、近い!葵生のスケベ!」


「はぁ?スケベではないだろ!」


そう言ってふざけ合っていると、気づけば大雨だったのが小雨に変わっていた。


「帰ろっか」


「だな」