本日は一学期の終業式。
ホームルームも終わったし、明日から待望の夏休み!
だけど今日は金曜日だから、デート練習部のボランティア日でもある。
これから部室へ行かなきゃだけど、忘れ物しないようにしないと。
明日からしばらくは、学校に行かないからね。
机の中や横をチェックしていると、森さんに肩を叩かれた。
「うちのクラスの前に鐵くんが立ってるんだけど――銀城さんが出てくるの、待ってるんじゃないかな?」
忘れ物がないことを最後にもう一回確認して、荷物を持って廊下へ出る。
「……ども」
イケメン年下男子にキャーキャーいう女子の声と、男子からちらほら聞こえる「デッケェな……」という声の先。
そこには確かに鐵くんがいて、私を見つけた彼はわずかに頭を下げた。
*
クラス前の廊下は帰宅する人や、他クラスの友達と話す人、学年違いの鐵くんが珍しくて見に来る人などで、混みだした。
だから私は、鐵くんがわざわざうちのクラスまで来た理由を聞く前に、部室へ向かうことにしたのだけど――
「今日のボランティア、なくなったから」
廊下を歩く人間が私たち以外いなくなった、後少しで部室という場所で、今まで無言だった鐵くんが突然言った。
「何で?」
私は立ち止まり、半歩後ろを歩いていた鐵くんを見上げる。
「終業式終わった後、三年生だけ体育館残って、進路説明会やってるだろ。それでオレら二人待たせんの悪いから、なしだって」
「なるほど。――そんな連絡きてたっけ?」
「オフラインでの連絡だから、グループSNSには連絡きてねぇよ」
ポケットからスマホを取りだした私に、鐵くんは軽く左右に首をふって言う。
「デート練習した時に話したけど、オレと天詩部長は、ガキのころからのダチなのもあってさ。今でも家族ぐるみでつきあいがあんだよ」
「何かいいね、そういうの」
「昨日も部長ん家で一緒に夕飯食ってたら、その時に伝言を三つことづかったんだ」
「わざわざ鐵くんに伝言頼むなんて、メッセージじゃ言いにくいことなんだ?」
「話した方が早いし分かりやすい、てだけの理由だ」
「ふぅん?」
「伝言一つ目はさっき言った、今日ボランティア活動はしないこと。二つ目は、夏休み中はボランティア含めて、デート練習部の活動はないってこと」
帰省や旅行などの予定が盛りだくさんな部員もいるだろうし、その方がいいよね。
実際私も森さんと長谷川さんと、プールと夏祭りに行く約束してるし、今年もお盆は母方のおばあちゃん家へ行く予定になってるし。
「三つ目は、夏休みに市の図書館で勉強会するから、ヒマなら一緒にやらねぇ? っていう誘い」
「鐵くんと私の二人で?」
「――バッ、バカか! んなワケねーだろ! 部員全員での話だよっ!」
「そ、そうなの? 勘違いしてごめんね」
私、変な質問してないよね?
なのに何で鐵くんは顔を赤くして怒るの?
意味分かんないけど、とりあえず謝っておこう……。
「ったく、人の話はちゃんと最後まで聞けっつーの」
鐵くんは私から視線をそらし、右手でがしがしと頭をかく。
「部員全員といっても強制じゃねーし、平日午前中のみの勉強会だから。みんな塾とか遊びの予定とかあるだろうし、午後からは勉強したい奴だけ残ってやれば? って方針らしい」
参加するなら、午後からは図書館で本を読んですごそうかな?
学校の図書室より断然蔵書が多いから、読んだことない怖い話の本、たくさんありそうだし。
「ちなみにオレは、明日から盆明けまで島に戻ることになってるから、勉強会には盆明けから加わる予定。逆に葉月先輩は、勉強会には盆前まで参加だと部長が言ってた。盆以降は海外にいるんだと」
「夏央先輩は海外旅行に行くのかぁ。豪華だね。どこ行くんだろ?」
「そこまでは知らねぇよ。そんで部長はお盆期間以外は、一人でも図書館で勉強会するってさ。銀城先輩はどうする?」
「私は――お盆はおばあちゃん家へ行く予定だけど、それ以外は長期間遠くへ行く予定はないし、用事がある日以外は参加しようかな」
誰かと一緒の勉強会なら、サボらずやれて、さくさく宿題終わらせられそうだし。
「銀城先輩は、天詩部長と同じような予定か。――オレの参加はお盆明けからだけど、よろしくな」
「こちらこそ」
私が笑顔でこたえれば、鐵くんもはにかむ。
こんな風に笑うと不良成分が消えて、年相応の可愛らしさを彼から感じる。
「私の予定、連絡しとこ」
スマホのアプリを起動し、部のグループSNSへ、お盆の前後に勉強会へ参加すると投稿する。
「……あのさ、銀城先輩」
「なぁに? まだ伝言があるの?」
「伝言はもうねぇよ。……今日はさ、ボランティアもねぇし、暑いだろ?」
「うん」
ん? 急に鐵くんのしゃべり方が、たどたどしくなったぞ?
「だからよ……オレの自転車の後ろ、乗ってけよ。家まで送ってやるから。……嫌なら別にいいけど」
ふふっ。
鐵くんはコミュ障以外に、ツンデレという属性も持っているみたい。
勇気出して言ってくれたみたいだし、私のことを先輩として、慕ってくれているからこそのお誘いだよね。
そんなの、断るわけないじゃない。
「嫌じゃないし、今日本当に暑いから、ご厚意に甘えさせてもらってもいい?」
鐵くんは安堵の表情を浮かべた後、「おう!」と元気よく言い、にかっと元気に笑った。
ホームルームも終わったし、明日から待望の夏休み!
だけど今日は金曜日だから、デート練習部のボランティア日でもある。
これから部室へ行かなきゃだけど、忘れ物しないようにしないと。
明日からしばらくは、学校に行かないからね。
机の中や横をチェックしていると、森さんに肩を叩かれた。
「うちのクラスの前に鐵くんが立ってるんだけど――銀城さんが出てくるの、待ってるんじゃないかな?」
忘れ物がないことを最後にもう一回確認して、荷物を持って廊下へ出る。
「……ども」
イケメン年下男子にキャーキャーいう女子の声と、男子からちらほら聞こえる「デッケェな……」という声の先。
そこには確かに鐵くんがいて、私を見つけた彼はわずかに頭を下げた。
*
クラス前の廊下は帰宅する人や、他クラスの友達と話す人、学年違いの鐵くんが珍しくて見に来る人などで、混みだした。
だから私は、鐵くんがわざわざうちのクラスまで来た理由を聞く前に、部室へ向かうことにしたのだけど――
「今日のボランティア、なくなったから」
廊下を歩く人間が私たち以外いなくなった、後少しで部室という場所で、今まで無言だった鐵くんが突然言った。
「何で?」
私は立ち止まり、半歩後ろを歩いていた鐵くんを見上げる。
「終業式終わった後、三年生だけ体育館残って、進路説明会やってるだろ。それでオレら二人待たせんの悪いから、なしだって」
「なるほど。――そんな連絡きてたっけ?」
「オフラインでの連絡だから、グループSNSには連絡きてねぇよ」
ポケットからスマホを取りだした私に、鐵くんは軽く左右に首をふって言う。
「デート練習した時に話したけど、オレと天詩部長は、ガキのころからのダチなのもあってさ。今でも家族ぐるみでつきあいがあんだよ」
「何かいいね、そういうの」
「昨日も部長ん家で一緒に夕飯食ってたら、その時に伝言を三つことづかったんだ」
「わざわざ鐵くんに伝言頼むなんて、メッセージじゃ言いにくいことなんだ?」
「話した方が早いし分かりやすい、てだけの理由だ」
「ふぅん?」
「伝言一つ目はさっき言った、今日ボランティア活動はしないこと。二つ目は、夏休み中はボランティア含めて、デート練習部の活動はないってこと」
帰省や旅行などの予定が盛りだくさんな部員もいるだろうし、その方がいいよね。
実際私も森さんと長谷川さんと、プールと夏祭りに行く約束してるし、今年もお盆は母方のおばあちゃん家へ行く予定になってるし。
「三つ目は、夏休みに市の図書館で勉強会するから、ヒマなら一緒にやらねぇ? っていう誘い」
「鐵くんと私の二人で?」
「――バッ、バカか! んなワケねーだろ! 部員全員での話だよっ!」
「そ、そうなの? 勘違いしてごめんね」
私、変な質問してないよね?
なのに何で鐵くんは顔を赤くして怒るの?
意味分かんないけど、とりあえず謝っておこう……。
「ったく、人の話はちゃんと最後まで聞けっつーの」
鐵くんは私から視線をそらし、右手でがしがしと頭をかく。
「部員全員といっても強制じゃねーし、平日午前中のみの勉強会だから。みんな塾とか遊びの予定とかあるだろうし、午後からは勉強したい奴だけ残ってやれば? って方針らしい」
参加するなら、午後からは図書館で本を読んですごそうかな?
学校の図書室より断然蔵書が多いから、読んだことない怖い話の本、たくさんありそうだし。
「ちなみにオレは、明日から盆明けまで島に戻ることになってるから、勉強会には盆明けから加わる予定。逆に葉月先輩は、勉強会には盆前まで参加だと部長が言ってた。盆以降は海外にいるんだと」
「夏央先輩は海外旅行に行くのかぁ。豪華だね。どこ行くんだろ?」
「そこまでは知らねぇよ。そんで部長はお盆期間以外は、一人でも図書館で勉強会するってさ。銀城先輩はどうする?」
「私は――お盆はおばあちゃん家へ行く予定だけど、それ以外は長期間遠くへ行く予定はないし、用事がある日以外は参加しようかな」
誰かと一緒の勉強会なら、サボらずやれて、さくさく宿題終わらせられそうだし。
「銀城先輩は、天詩部長と同じような予定か。――オレの参加はお盆明けからだけど、よろしくな」
「こちらこそ」
私が笑顔でこたえれば、鐵くんもはにかむ。
こんな風に笑うと不良成分が消えて、年相応の可愛らしさを彼から感じる。
「私の予定、連絡しとこ」
スマホのアプリを起動し、部のグループSNSへ、お盆の前後に勉強会へ参加すると投稿する。
「……あのさ、銀城先輩」
「なぁに? まだ伝言があるの?」
「伝言はもうねぇよ。……今日はさ、ボランティアもねぇし、暑いだろ?」
「うん」
ん? 急に鐵くんのしゃべり方が、たどたどしくなったぞ?
「だからよ……オレの自転車の後ろ、乗ってけよ。家まで送ってやるから。……嫌なら別にいいけど」
ふふっ。
鐵くんはコミュ障以外に、ツンデレという属性も持っているみたい。
勇気出して言ってくれたみたいだし、私のことを先輩として、慕ってくれているからこそのお誘いだよね。
そんなの、断るわけないじゃない。
「嫌じゃないし、今日本当に暑いから、ご厚意に甘えさせてもらってもいい?」
鐵くんは安堵の表情を浮かべた後、「おう!」と元気よく言い、にかっと元気に笑った。