入部初日とボランティア活動を終えた日の夜。
気疲れした私は早々にベッドへ入り、デート練習部に入ってしまったことを後悔していた。

ハァ……イケメン三人のファンたちに、むちゃくちゃ悪口言われてそうだな、私……。
部を利用している依頼者たちからの推薦て……マジ意味分かんない。
私なんかより、美人だったり美形だったりする人たくさんいるのに、何で私?
多くの人から反感と顰蹙(ひんしゅく)を買う場所に、推薦されるだなんて……。
花水木中学に転校してきてから、まだ約二ヶ月しかたってないのに、そんなにも嫌われるようなこと、私したっけ?
身に覚えがないんだけど、新参者の陰キャコミュ障だから、気づかないうちにやらかしてたのかも?
学校やクラスに、積極的に馴染もうとしないのがムカつく! とか?
でもこれ、私なりの自己防衛術だから見逃して欲しいなぁ。

私だってね、小学四年生までは友達作り頑張ってたんだよ。人間関係作るの下手くそマンなりに。
でもさ、五年生になる前日に気がついちゃったんだよ。
『転校したら、転校前の友達関係は終わってしまう』、ということに。
ううん。
本当はもっと前から気づいていたけど、悲しすぎるから、気づかないふりをしていたんだ。
十人以上に引っ越し先の住所を教えても、届く手紙は一通か、多くて二通。
そして一回か二回、やり取りをしたら、以降はもう届かない。
返事が来なくても、私から新たに手紙を送ったこともあったけれど、それにも返信がくることはなくて。

つまりこれって、むこうは私ともう友達じゃない、もしくは友達じゃなくなってもいい、と思っているからだよね?
何回も一緒に遊んだのに、別れる時泣いてくれたのに……何で?
私はまだこんなにも、あなたのことを友達だと思っているのに。
やっぱり離れてしまうと、毎日会わないと、友達じゃなくなるってこと?
約一年の友情は、手紙一通か二通の重さしかないの?
吹けば飛ぶ軽い友情……――だから、仕方がない。あきらめよう。あきらめるしかない。

こういう経緯と理由から、私は五年生以降、友達作りを頑張るのをやめた。
転校したら即友達じゃなくなる友達なんて、作る労力にみあわないし、転校後即切りされてしまうショックをもう味わいたくなくて。
班作りの時、困らない程度の仲の相手がいればいい。

高校生になったら、お父さんの転勤につきあわなくていい、という約束を両親としている。
だから、本当の友達を作って青春するのは、高校生になってからと決めたの。
友達同士ではしゃいでる人たちを見ると、すごくうらやましくなっちゃうけど、あと二年弱の我慢。

それなのに――転校したらすぐ友やめされちゃう、人間的魅力ゼロな私が、デート練習をする部の部員って。
笑っちゃうし、ため息しかでない。
でもまぁこんな人間な私が、デート練習の相手役なんて、上手くできるわけないし。
すぐに苦情がきて、退部(クビ)になるでしょ。



一学期の期末テストを一週間後に控えた、部活停止期間の初日。
私は家に帰るために教室を出たところを四季坂部長につかまり、部室に連れてこられていた。

「部長、今日から部活はしちゃいけないんですよ」
「大丈夫、すぐ終わるから。――銀城さん、あまり伝えたくないのだが……君に苦情が来ている」
「そうなんですか?」

心の中で「でしょうね」と思ったけど、私はすっとぼけて首をかしげてみせた。
予想通りの展開。
だってまず私にやる気がないし、私は転校したらすぐに友やめされちゃう、魅力ゼロ人間ですから。

「キミには入部してから四回、デート練習部部員として活動してもらった」
「はい」

入部後意外だったのは、あからさまな悪口とか、直球の敵意をいまだにぶつけられていないこと。
いざとなったら登校拒否するしかない……と、悲観的になっていたから、よい意味で拍子抜けた。
まぁ、私の方を見ながらヒソヒソ話はされてるから、まったくの無風無傷というわけでもないんだけどね。

「四人全員からではないが、控え目な苦情が来ている。君とのデートが楽しくなかったと」

この四人のうちの一人は、なんと森さんだったから驚いた。
私が森さん長谷川さんに相談した時、「もし入部したら申し込むよ」と言ってくれてたけど、有言実行してくれるとは思っていなかったから。
この森さんとの回は楽しかったな。
学校の裏庭で、ただおしゃべりしただけだったんだけど。
そういえば森さんは最初に、
「びっくりさせてごめんね。銀城さんは人と会話するの、あまり好きじゃないかもだけど、もっとお話ししてみたくって」
と謝ってきたんだけど……これって私がコミュ障ということ以外に、あえて距離をおいてるせいだよね。
でも『一年間だけの友達』じゃ、私がつらいんだ……ごめんなさい。

「話しかけないとしゃべらない、返事しても『うん』や『いいえ』で会話が続かないとか、そういう苦情がね、来てるわけだよ」

部長は腕を組み、困ったなぁという様子で眉を八の字にする。
部長。私、何回も言いましたよね。
私はコミュ障なので、初対面の相手と楽しく会話するのは無理です! って。
(ちなみに、森さん以外のデート練習相手は全員、一年生の女の子でした)

「半ば無理矢理引き込んだようなものだからさ、キミに不満があるのは分かる。でもね、それを依頼者にぶつけるのはどうかと思う。ぶつけるなら僕にしたまえ」
「そんなつもりはなかったんですが」

というか私、一回もデートしたことがない、デート未経験者なんですよね。
そんな私とデート練習したって……ねぇ?

「全然知らない、はじめて会った人と何を話せばいいんでしょう? 私、陰キャコミュ障なんで分からないんです」
「僕とはこうしてしゃべれているのに?」
「今求められているのは、『気のきいた楽しい会話』じゃないので」

部長は「ウーン」とうなり、うつ向く。
よし、勝った!
さぁ早く、「なら退部してもらうしかないね」と言って下さい!

「そうか、なら……」

部長は顔を上げ、真面目な顔で私を見る。
やったね! さようなら、デート練習部!

「キミを教育しようじゃないか! デート練習部部員として胸をはれるように! テストが終わったら、銀城さんのデート練習をすることにしよう!」

ええー?! 何ですとー?!