「あの~」
遠慮がちに川口さんに声をかけた。
「何?」
川口さんは何事も無かったかのように笑顔で私を見る。
「電話、出なくても良かったの?」
「ああ、いいんだ。別に」
それだけ言うと川口さんはラーメンを食べ始めた。けれど、それから間髪置かずにまたしても電話がかかってきた。
トゥルルルルルル
トゥルルルルルル
トゥルルルルルル
「「…」」
5回コールが鳴っても川口さんは出ようとしない。私も何となく声を掛けずらくて2人の間に気まずい沈黙が流れる。お互い無言で食事をしていたけれども…。
ついに我慢できなかったのか、川口さんは溜息をつくとスマホの電源を落としてしまった。
「あ」
思わず私が声を上げると、川口さんは顔を上げて私を見る。
「これでやっと静かになったよ」
「う、うん。だけど…」
私はそこで口を閉ざした。でもやっぱり駄目だ。私には何の関係も無い話。大体私と川口さんはそんな深くプライベートな話をするような仲じゃない。ただご近所さんで、たまたま今日は2人で一緒に出来掛けてきた。それだけの関係なんだから。私は無言でハンバーガーセットをたべていると、不意に川口さんが声をかけてきた。
「だけど…何?」
「え?」
私は川口さんの声に顔を上げた。いつの間にか川口さんは食事を終え、頬杖をつくとじっと私を見ていた。
「今、何か言いかけていたよね?」
「う、ううん。いいの、それより早く食べなくちゃね、さっきよりも人が増えて混雑してきたから」
それだけ言うと私は急いで残りの食事を食べ続けた――
****
「ああ、美味しかった~」
川口さんとフードコートを出ると、正直な気持ちを口にした。
「加藤さん、これからどうするの?」
隣を歩く川口さんが私に尋ねてきた。
「う~ん」
その時、私の脳裏に先ほどの着信相手の事が頭をよぎった。そうだ…きっとあの女性は川口さんに用事があるはずなんだ。だったら…。
「マンションに帰るよ」
「ええっ?!ここまで来てもう帰るの?」
川口さんは何故かショックを受けたような顔で私を見る。
「う、うん」
「もしかして何か用事でもあるの?」
突然川口さんが私の右手を握り締めてきた。
「え?」
「あの幼馴染の彼とやっぱり会うつもり…?」
川口さんの瞳はいつになく真剣だった。突然思いがけず亮平の事を口に出されて私は驚いた。
「ま、まさか!亮平の事なんて今川口さんに言われるまで忘れていたよ」
「え?そうだったの?」
川口さんは私の手を離すと、じっと見つめてきた。
「う、うん」
「だったら…」
そこまで口に出した川口さんは不意に何かを思いついたような顔をすると私を見た。
「どうせ、ここまで来たんだし…どこかカフェにでも入らない?」
別にコーヒーぐらいなら付き合ってもいいかな。そこで私は返事をした。
「うん、いいよ?」
「良かった。それじゃ行こう」
こうして私と川口さんは連れ立ってスカイツリーを出る事にした。
****
押上駅にほど近いカフェスタンドに私と川口さんは来ていた。
2人で窓際の丸テーブルに向かい合って、私はカフェオレ、川口さんはブレンドコーヒーを飲んでいる。店内には去年流行した洋楽のヒットメドレー局が流れていて、やはりこの店も若いカップルが目立っていた。中には振り袖姿の女性も数人いる。初詣の帰りなのかな?私と川口さんは少しの間、互いに口を聞かずにコーヒーを飲んでいたけれども…。
「加藤さん」
不意に川口さんが神妙な顔つきで声をかけてきた。
「何?」
「何も…聞かないんだね…」
何も?ああ、きっとあの電話の女性の事を言っているのかな?
「うん。何だか私が入り込んでも良い話とは思えなかったし、誰にだって聞かれたくない話ってあるでしょう?」
「俺は…聞いて欲しい…」
「え?」
「俺は、加藤さんに…俺の話を聞いてもらいたいんだ…」
川口さんは真剣な瞳で私をじっと見つめてきた――
遠慮がちに川口さんに声をかけた。
「何?」
川口さんは何事も無かったかのように笑顔で私を見る。
「電話、出なくても良かったの?」
「ああ、いいんだ。別に」
それだけ言うと川口さんはラーメンを食べ始めた。けれど、それから間髪置かずにまたしても電話がかかってきた。
トゥルルルルルル
トゥルルルルルル
トゥルルルルルル
「「…」」
5回コールが鳴っても川口さんは出ようとしない。私も何となく声を掛けずらくて2人の間に気まずい沈黙が流れる。お互い無言で食事をしていたけれども…。
ついに我慢できなかったのか、川口さんは溜息をつくとスマホの電源を落としてしまった。
「あ」
思わず私が声を上げると、川口さんは顔を上げて私を見る。
「これでやっと静かになったよ」
「う、うん。だけど…」
私はそこで口を閉ざした。でもやっぱり駄目だ。私には何の関係も無い話。大体私と川口さんはそんな深くプライベートな話をするような仲じゃない。ただご近所さんで、たまたま今日は2人で一緒に出来掛けてきた。それだけの関係なんだから。私は無言でハンバーガーセットをたべていると、不意に川口さんが声をかけてきた。
「だけど…何?」
「え?」
私は川口さんの声に顔を上げた。いつの間にか川口さんは食事を終え、頬杖をつくとじっと私を見ていた。
「今、何か言いかけていたよね?」
「う、ううん。いいの、それより早く食べなくちゃね、さっきよりも人が増えて混雑してきたから」
それだけ言うと私は急いで残りの食事を食べ続けた――
****
「ああ、美味しかった~」
川口さんとフードコートを出ると、正直な気持ちを口にした。
「加藤さん、これからどうするの?」
隣を歩く川口さんが私に尋ねてきた。
「う~ん」
その時、私の脳裏に先ほどの着信相手の事が頭をよぎった。そうだ…きっとあの女性は川口さんに用事があるはずなんだ。だったら…。
「マンションに帰るよ」
「ええっ?!ここまで来てもう帰るの?」
川口さんは何故かショックを受けたような顔で私を見る。
「う、うん」
「もしかして何か用事でもあるの?」
突然川口さんが私の右手を握り締めてきた。
「え?」
「あの幼馴染の彼とやっぱり会うつもり…?」
川口さんの瞳はいつになく真剣だった。突然思いがけず亮平の事を口に出されて私は驚いた。
「ま、まさか!亮平の事なんて今川口さんに言われるまで忘れていたよ」
「え?そうだったの?」
川口さんは私の手を離すと、じっと見つめてきた。
「う、うん」
「だったら…」
そこまで口に出した川口さんは不意に何かを思いついたような顔をすると私を見た。
「どうせ、ここまで来たんだし…どこかカフェにでも入らない?」
別にコーヒーぐらいなら付き合ってもいいかな。そこで私は返事をした。
「うん、いいよ?」
「良かった。それじゃ行こう」
こうして私と川口さんは連れ立ってスカイツリーを出る事にした。
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押上駅にほど近いカフェスタンドに私と川口さんは来ていた。
2人で窓際の丸テーブルに向かい合って、私はカフェオレ、川口さんはブレンドコーヒーを飲んでいる。店内には去年流行した洋楽のヒットメドレー局が流れていて、やはりこの店も若いカップルが目立っていた。中には振り袖姿の女性も数人いる。初詣の帰りなのかな?私と川口さんは少しの間、互いに口を聞かずにコーヒーを飲んでいたけれども…。
「加藤さん」
不意に川口さんが神妙な顔つきで声をかけてきた。
「何?」
「何も…聞かないんだね…」
何も?ああ、きっとあの電話の女性の事を言っているのかな?
「うん。何だか私が入り込んでも良い話とは思えなかったし、誰にだって聞かれたくない話ってあるでしょう?」
「俺は…聞いて欲しい…」
「え?」
「俺は、加藤さんに…俺の話を聞いてもらいたいんだ…」
川口さんは真剣な瞳で私をじっと見つめてきた――