『妖怪食堂』。
 普通の人間には入れないように、特殊な結界が張られている。そこにたどり着くには、ある手順を踏まないと入れない。
 ……まあ、たまーに酔っぱらいが間違って入ってくることもあるんだけど。
 そんなわけで、私は冬夜くんと夏樹くんを、商店街にある恵比寿像の前で待っていた。シャッター通り、なんて言われがちな商店街だけど、県が設けた外国人労働者の相談施設がアーケード内のビルにある影響なのか、美味しそうなエスニック料理店がたくさん並んでいる。時折、駐車場で国際フェスタが開かれているらしい。
 さて、入り方なんだけど、至ってシンプル。飲み屋が続くこの道に、『妖怪食堂』がある、と信じて入ればいい。
 そして突き当たったところに、『妖怪食堂』と掲げたのれんがある。
 見つけた途端、夏樹くんが一番乗りでのれんをくぐった。

「こんにちはー!」
「はい、こんにちは!」
 
 元気よく、夏樹くんが挨拶すると、のびやかで明るい声が響く。
 そして奥から、ふくよかな体格をした三十代ぐらいの男性がやってきた。店長だ。

「君は夏樹くんかな? 初めまして、店長です」
「てんちょー! こんにちはー!」

 いえい、と夏樹くんと店長がハイタッチする。
 後ろから冬夜くんが、ぺこり、と頭を下げた。

「こんにちは。今日はお世話になります」
「いらっしゃい! こっちこそ、今日はよろしくね!」

 きゃー、と満面の笑みで店長が迎える。
 ……さては店長、冬夜くんの大ファン?

「お、来たね。いらっしゃい」

 暖簾を上げて、音子さんがやって来た。
 ふわふわと揺れる二つのしっぽと、おかっぱ頭の上にある三角形の耳を見て、冬夜くんが驚いた表情を見せる。

「こんにちは。そこそこ妖怪が来ると思うけど、悪いやつじゃないから。しんどかったら、奥のお座敷席使ってね」

 そう言って、音子さんはまた奥へ戻っていった。
 
「……俺にも、妖怪が視えるんだな」
「ここは霊脈のそばだから、妖怪も実体を持ちやすいんだよ。だから冬夜くんも視えるよ」

 時間が経つにつれ、ザワザワ、と妖怪たちが増えていく。
 壁際にあるテーブル席に座った夏樹くんと冬夜くんが、その様子を興味津々で見ていた。