その部屋は、まるで倉庫のように色んな書類や荷物が置かれていた。 コンクリートがむき出しになった壁際には、ファイルケースが置かれている。
 窓から差し込む西日が、キラキラと埃を弾いて輝く。
 なぜか小上がりの畳があるそこには、文庫本を顔に乗せて横たわっている男の子がいた。

「ほら、冬夜起きろ! あかり連れて来たわよ」

 ちーちゃんが文庫本を取り上げると、整えられた眉をひそめて、「ん……」と、低く甘い声をもらした。
 そのまま気だるそうに、ゆっくり身体を起こす。

「……今何時?」
「もう学校終わったわよ。はい、あかり」

 文庫本を脇にはさんで、ちーちゃんが私の肩をポン、と叩く。
 
「ど、どうも……」
「……ども」

 眠たそうな目で、こちらを見てきた。

「じゃ、私はそろそろ帰るから。またね、あかり」
「あ、うん! またね」

 去っていくちーちゃんを見届けると、冬夜くんが、「小野、千尋と仲が良かったっけ……?」と尋ねてきた。

「ううん。今日知り合った」
「……そうか」

 沈黙が流れる。
 ゆっくりと、冬夜くんが立ち上がった。
 ……こうしてみると、冬夜くんって、私とあんまり身長変わらないんだな。
 肩幅が広いわけでもない。表情は氷のように固まっているけど、厳つくはなく、むしろ中性的な顔立ちだ。
 それなのにオーラというか、振舞い方がどっしりとしている。本当に中学生?
 だけど一番びっくりするのは、彼の目だ。
 切れ長の美しい目の下に、泣きぼくろが一つ。その目の色は私と変わらないのに、まるで湖水のように深い美しい。その目に見られると、緊張で体が動かなくなりそうだ。
 
「……あ、あの」
「小野に会ってもらいたいやつがいる」
「あ、会ってもらいたいやつ?」

 冬夜くんは畳の上に置いていた通学鞄を持って言った。

「ついてきてほしい」

 こんなに人を付き合わせておいて、説明もない。
 なのに自分勝手な人だと、切り捨てられない何かがあった。
 慎重に与える情報を見極めるような、誠実な目だ。きっと、信頼するに足る人だと、私の直感がささやいた。