「ほ、ほら、私、包丁師見習いだし。こういう、幽霊を慰める場所の雰囲気って、きっと勉強になるっていうか……」
 
 言っていて、後ろめたくなってきた。
 わかってる。こんなのは言い訳だ。冬夜くんを思いやったわけでも、ましてや、さっき出てきた包丁師の勉強のためでもない。
 単に私は、今とても楽しくて、もう少しこの時間を続けたいだけ。
 だけど、「楽しい」と思うことが「いけない」ことのように思う。だから代わりに、何か「やらなくてはいけない」ことにすり替えなきゃいけないんじゃないかと不安になる。その不安を、冬夜くんに押し付けただけだ。
 ドキドキしながら答えを待っていると、ふ、と顔をゆるませて、冬夜くんが言った。

「そうだな。俺に付き合ってもらったんだから、今度は俺が小野に付き合う番だ」

 次はどこに行く? と、冬夜くんが聞く。
 それを聞いたとたん、体にこもっていた力が驚くほど抜けていく。

「小野?」
「あ、うん! ええと……冬夜くんに任せてもいいかな? 私、テーマパーク行ったことないから」

 私の言葉に、そうだったな、と冬夜くんが言う。
 冬夜くんはパンフレットにある地図を広げながら、楽しそうに眺めていた。
 ……なんでだろう。どうして、こんなに力が抜けてしまったんだろう。今までない安堵感に、逆に困惑してしまう。
 そうやってぼうっと立っていたから、走ってくる男の子に気づかずぶつかってしまった。

「すみません! 怪我はありませんか?」

 後から追いかけてきた、ぶつかってきた子より大きい男の子が頭を下げた。大丈夫だよ、と告げると、二人はペコペコと頭を下げながらその場を去った。

「あの子たちも、幽霊か?」
「あ、よくわかったね」
「何となく区別がつくようになった」

 この短時間ですごいな、冬夜くん。普段は『視えなく』ても、素質はあるのかもしれない。

「……あの子たちは、あの年齢で幽霊になったんだな」

 目を細めて冬夜くんが言う。

「それはわからないかな」
「わからない?」
「幽霊って、一番忘れられない頃の姿になることも多いんだよ。だから、死んだ当時の姿とも限らないんだ」

 強い日差しの中、元気に走っていく男の子たちを見る。

「……子ども時代を奪われたからこそ、子どもに戻る幽霊も多いって、店長が言ってた」

 子ども時代、大人の庇護を受けられなかった人。遊ぶ自由や、好きな食べ物を食べられなかった人。その楽しさを、亡くなった後にようやく手にできる場所が、このテーマパークなのかもしれない。

「……そうか」

 冬夜くんはそれだけ言った。