「まったく、お化け屋敷のスタッフの名前言うなんて、マナー違反じゃないの」

『妖怪食堂』の常連であるろくろ首の吉子さんが、非難めいた目で私を見る。

「それはこっちのセリフ。本物のお化けが出るお化け屋敷って、ズルすぎるでしょ」

 そう。このお化け屋敷は、心霊スポットというより、お化け屋敷そのものが妖怪のスタッフによるものだったのだ。
 それに気づいて、私は冬夜くんに説明しようか迷った。お化け屋敷は恐怖を楽しむ場所。楽しんでもらうには、ネタばらししてはいけないんじゃないかと思った。
 ……けど、冬夜くんが命の危険を感じながら怖がっていたので、白状したというわけだ。

「で、説明してもらいましょうか。何やってるの?」

 私が聞くと、吉子さんは、「説明もなにも」と言う。

「私はこのテーマパークのスタッフだよ。
 この『グリーンワールド』は、言わば地蔵浄土さね」

 やっぱり。
 私が頭を抱えていると、冬夜くんがあ、と声を上げた。

「地蔵浄土って、『おむすびころりん』のことですか?」

 冬夜くんの言葉に、そそ、と吉子さんが言う。
 おじいさんが落としたおむすびを追いかけて、ネズミたちの世界に迷い込む話だ。鼠浄土とも言われている。
 
「元々ここは、根の国の入口みたいなものでね。妖怪たちが住処にして、亡霊たちを慰める宿をしてたんだ」
「ああ、だから幽霊の子がいたのか」

 冬夜くんが納得したように言う。

「けど、結構な頻度で生身の人間が来ることもあってね。それならいっそテーマパークにして、生者も亡者も問わず歓迎しようってことになったのよ。
 もちろん、亡者の安穏は守られるために、人間には気付かれないよう、実体化させてるけどね。妖怪たちにも、ここで楽しむには『人間に化ける』よう伝えてある」

 なるほど、入口では妖怪たちがチラホラいたのに、全然妖怪の姿が見えなかったのは、人間に化けていたからなのか。
 テーマパークが心霊スポットになったんじゃなくて、そもそも妖怪たちによって作られたテーマパークだったのだ。
 あれ。じゃあ、心霊現象の噂って?

「そりゃ、金儲けのためさ」

 あっさり吉子さんが言う。

「テーマパークってとんでもなく金がかかるからね。生きている人間からは、ごっそりとらないと。『本当に幽霊や妖怪が出る』お化け屋敷なんて、SNSで人気でるじゃない」

 思った以上に、俗世っぽい回答が来た。
 こういうの、自作自演っていうのかな? 心霊現象は起きてるから違う?

「じゃあなんで、ゲームセンターの怪異はいなかったの? あれはSNSでのデマ?」

 ああ、と吉子さんが言う。

「多分有給とってるね、『ソムニウム』の子は」

 妖怪にもちゃんと、労働基準法適応されてるんだ。