他の店にも、居酒屋さんと同じように、セリフが書かれたものが置いてあった。
 会話文から情報を要約すると、『急に光って音が鳴ったので、気味が悪くてすぐに捨てた』『奥にある神社には入ってはいけない』とある。
 ここまで来ると、大体読めてくる。多分、この通りの奥にある神社に、『大切なもの』があるのだろう。
 けど、今のところお化け屋敷の要素がない。お店の中に入って、情報を集めるだけ。
 そして店には入れるのに、『神社には入ってはいけない』と書かれている。
 こういうのは、大抵禁忌を犯したら、取り返しのつかないことになる。『大切なもの』をとった後、何か異変が起きるようになっているんだろう。

 通りの奥に行くと、竹に覆われた鳥居と石灯籠、それから社殿が見えた。
 どこかにスピーカーがあるのだろうか。ザワザワという音と、虫の声が聞こえてきて、いかにも怪しい感じがする。
 私たちが鳥居の下をくぐると、

 ガチャン!!

 という、金属と金属がぶつかり合う音が響いた。
 まるで何かの扉が開いたような音だ。よく見ると、社殿の扉が開かれていた。
 奥は薄暗いが、何か光るものが置いてある。
 私たちは、土足のまま社殿へ入った。
 ぎしり、と、木でできた床がきしむ。その時だった。

 バタン! という音とともに、扉がゆっくり閉まったのだ。

「!?」

 冬夜くんが慌てて扉を開けようとするが、扉は開かない。なんどか扉を揺らした時、けたたましい電子音が鳴った。 
 光りながら、何かが鳴っている。
 近づいてみるとそれは、スマホだった。
 やっぱり、『大切なもの』ってスマホのことだったんだな。
 これを持ち帰って元の場所に戻れたらいいのだろうか、と思ったその時、突然スマホは鳴り止んだ。
 代わりに、スマホの画面はトーク画面へと代わった。通知履歴がついており、そのあとには、

 入ッタナ?

 ピロンピロンピロンピロン。
 通知音とともに、画面いっぱいに「入ッタナ?」というメッセージが打ち込まれていく。
 そして、それが終わった瞬間、
 
 ガタガタッ
 
 という音とともに、社殿がゆっくりと揺れる。
 冬夜くんがこっちに駆けつけて、私を庇うように地面に伏せる。
 社殿の揺れが止まると、冬夜くんは私から離れた。

「……大丈夫か?」
「うん」

 お化け屋敷って、もっとアナログなイメージがあった。
 まさか、スマホが出てきたり、アトラクションみたいに振動することもあるなんて。

「スマホは? どうなってる?」

 冬夜くんに言われて、私は冬夜くんにスマホを見せる。
「入ッタナ?」と打ち込まれたメッセージを見て、冬夜くんは眉をひそめた。
 その時、ガチャン!! と、また鍵が開いたような音が響く。
 思わず冬夜くんも私も、社殿の扉を見た。
 ゆっくりと、ドアが開かれていく。
 神社の向こうにある商店街は、さっきまでオレンジ色の光に包まれていたのに、明かりが弱くなっていた。

「……出てみようか」

 私がそう言うと、冬夜くんは手を繋いで、私の前を歩いて進む。
 そして、鳥居を出た途端――彼は、息を呑んだ。
 私も、ハッ、とその光景に目を奪われる。

 にぎやかな商店街は、いつの間にかくたびれた、シャッター通りへと変貌していたのだ。