落ち着いてから、私は冬夜くんの元へ戻る。
 席に戻ると、冬夜くんは座っていなくて、テラス席に接した通路にいた。男の子と、何か話している。
 その後、近くのアイスクリーム屋さんに行って、男の子に渡していた。すると男の子は、頭をぺこり、と下げて、そのまま去っていった。
 ……あの男の子。
 男の子を見送っていた冬夜くんが、「落とさないようになー」と声をかけた。

「……冬夜くん。さっきの子」
「ああ、小野か。小野もアイスクリーム注文するか?」
「さっきの子、幽霊だよ」

 私の言葉に、「えっ」と冬夜くんがかたまる。
 今の冬夜くんは、眼鏡を外していた。……それなのに、あの子が視えていた。

「……マジで?」
「マジで。え、冬夜くん、あの子におごった?」
「いや、お金は持っていた。背が低くて、なかなか店員さんに気づいてもらえなかったみたいで、『代わりに注文して欲しい』って頼まれて……けどそうだよな、よく考えたら、あの年齢の子が保護者もいないでアイスクリームを買いに行くなんて、おかしいな」

 うん、と冬夜くんはうなずいて、

「ひょっとして、幽霊だから、店員さんに視えなかったのか?」
「それだと、冬夜くんが眼鏡なしで視えているのが変」

 大蛇のこともあるから、また『たまたま』視えた可能性もある。
 でも、もう一つ、私にはある考えが浮かんでいた。
霊脈の影響を受けた『妖怪食堂』のように、幽霊が実体化している可能性だ。

「そう言えば、『グリーンワールド』の園内で、幽霊の子どもが現れる、って噂はあるの?」
「いや。俺は聞いたことがない」

 ということはおそらく、幽霊が現れても、ここにいる人たちは幽霊だと気づいていない。
 そして、さっきから気になっていたのは、入園する前は明らかに人の姿をしていない妖怪がいたのに、入ってからは全く見かけないということ。
 ……これ、ひょっとして、順序が逆だったのかもしれない。

「冬夜くん、予定変更して、先にお化け屋敷に行ってもいいかな?」
「え? 小野がいいなら、構わないが。じゃあ俺は……」
「あ、冬夜くんも来て大丈夫だと思う。……多分」

 お化け屋敷は危険だろうから、私一人で行くね、と最初に言っていたので、冬夜くんは不思議そうな顔をする。
 まだ確証はないけど、おそらくこれは、お化け屋敷に答えがある。