「え!? 目が合った!?」

 私が告げると、『妖怪食堂』の店長がぎょっと目を丸くした。
 私は重たい瞼をこすりながら、「そうなんですよ」と告げる。
「昨夜は頑張ったんだし、今日は学校休んだ方がいいんじゃないかい?」店員である音子さんが、お盆に乗せた朝食を持って来てくれた。ふわふわと、二つに裂けたしっぽがゆれる音子さんは猫又だ。
 大丈夫です、と答えると、「無理すんじゃないよ」と言って、音子さんは奥へ入っていった。
 
「『かくりよの衣』を着ていたんなら、普通の人間には視えないはずだよ? 気のせいじゃない?」
「いやあ……その後、『小野か?』って言われたら……」
「じゃあ視える子なのかな? っていうか、なんでそんな時間に中学生が出歩いているのか……」
「それは私もなんですけど」

 私がそう言うと、「いやまあ、そうなんだけど」と店長が頭をかく。

「もし見える子なら、きっと大変な想いをしているだろうし、助けになりたいなって思ってね。その子の名前、教えてくれる?」

 店長の言葉に、私はなんとか記憶を引っ張り出す。
 たしか、私の二つ後ろに座っている男の子だ。涼しげだけど潤んだ切れ長の目に、整った中性的な顔。ただ、私も彼も、居眠りしている時間が長くて、あまり顔を合わせていない。
 私は先生が呼ぶ彼の苗字と、クラスメイトが呼んでいた下の名前を思い出した。

「えーと、確か名前は、古田冬夜って言ってたかな?」

 私がそう言うと、店長は持っていたお皿を割った。