テーマパーク『グリーンワールド』。
 平たい入口から、大きな観覧車が回っているのが見えた。

「大丈夫? 冬夜くん」
「大丈夫……」

 人が並ぶ朝十時。私の隣には、顔色がすこぶる悪い冬夜くんがいる。朝一で電車に乗ったから、しんどいんだろうな。
 なんでこうなっているかというと――事の発端は、冬夜くんの相談事だ。

 ■

『え! 夏樹くん、遠足でテーマパーク行くの!?』

 私の言葉に、ああ、と冬夜くんはうなずく。
 冬夜くんの『相談事』とは、夏樹くんが一週間後に行く遠足のことだった。しかも、この地方でも有名なテーマパークだ。
 すご。私が小学校の時、近所の公園まで歩くぐらいだったよ。

『相談というのは、そのテーマパークに、怪異の噂があることなんだ』

 その言葉に、なるほど、と理解する。
 テーマパークは心霊現象が起きやすい。というのも、テーマパークとは、「非日常」を演出することが目的だからだ。
 え、それだけ? と思われるかもしれないけど、これはある種の結界になっている。おまけに、テーマパークみたいに町と空間を区切るのは、『境』の概念だ。
 異界へ通じる道は、主に『合』『穴』『境』の三つに分けられていて、そのうち『境』タイプは禁忌の地に迷いやすく、二度と帰れないこともあるのだ。

『俺には、その噂が本当なのかはわからない。けど、危険ばかりを恐れて、ナツが楽しむ機会を奪うこともしたくない。……過剰な判断かもしれないけど、』
『オッケー。私が事前調査をすればいいんだね』

 私がそう言うと、『必要経費は俺が出すよ』と冬夜くんが言う。

『いらないいらない。店長から貰うし』
『いや……でも……』

 冬夜くんの表情が暗い。
 まあ確かに、テーマパークって入場するだけでお金取られるし、アトラクションを全部チェックするとなると、それなりにお金を使うだろうな。冬夜くんはそこを心配しているんだろう。
 私は少し考えて、こう返した。

『あー、でももしかしたら店長、何か知ってるかも。先に店長に聞いてみよっか』
 
 で、『妖怪食堂』に戻って、店長に聞いてみたところ。
 店長は、机に両肘をついて、真面目な顔でこう言った。

『冬夜くんと。一緒に行きなさい』
『……なんで?』
『店長命令です。冬夜くんと。一緒に行きなさい』
『いや、店長。これ、遊びに行く相談じゃないんですよ?』

 そもそも冬夜くんは、妖怪や幽霊が視えない。『境』になった場所なら視えるかもしれないけど、視えたとしても、対怪異の訓練を受けていない彼を巻き込むわけにはいかない。
 なんて言ったら、店長は元気よく『大丈夫!』と返した。
 
『ここに、「かくりよの眼鏡」を用意してるから! これ付けたら冬夜くんでも妖怪が視える!』

 私は思わず、飲んでいたお茶を吹き出す。

『それウン十万するやつですよね!? 私にくれた衣といい、中学生にほいほい高価なアイテム渡さないでください!!』
『あ、冬夜くんのお金もこっちで用意するから、気にしないでって言ってね! あと、夏樹くんのごはんはこっちで用意するとも言っておいて!』
『余計気を遣わせませんか!?』