死者の国の食べ物を食べると、現世には戻ってこれない。あるいは、死者の世界の住人と見なされ、普通の人間には戻れない。

「ナツには、妖怪や幽霊から与えられた食べ物は食べないように言っている。だが……ナツの意思では、どうにもならない事が起きるかもしれない」

 だから相談できる相手がいるのは助かるよ、と冬夜くんは笑った。
 その笑顔に、私は胸を締め付けられる。
 この人はどれだけ、夏樹くんの帰りを不安になりながら待っていたんだろう?
 そして、どんな想いで、私とコンタクトをとったんだろう。

「……もしかして、あの時も、夏樹くんを探していたの?」

 私は、大蛇を倒した夜を思い出しながら尋ねた。

「いや。あれは単なる気まぐれ」
「気まぐれなんかい」

 思わず私はツッコミを入れてしまう。
 けど、と冬夜くんは顔をほころばせた。

「それで古田に会えたんだから、よかったよ」

 その笑みは、夏樹くんに見せたものと同じで、あどけなくて、やわらかい笑みだった。
 まるで、自分が彼にとっての特別な人間になった様な錯覚を抱く。
 ……なるほど。こうやって周りの人間を骨抜きにしていくのかぁ。

「けど、あまり会うと、小野の迷惑になるな」
「ん? やっかみのこと? それは別に」

 歳の変わらない子に対して、何か恐れるものがあるのだろうか。
 そう言うと、冬夜くんは目を瞬かせた。

「……そうだな、小野は大蛇も倒せるもんな」
「そうそう。だから気にしないで、何時でも声を掛けてよ」
「わかった。けど、そっちも何かあったら言ってくれ」

 冬夜くんの言葉に、私は笑ってうなずいた。