「人間の文化が変化すれば、妖怪の文化も変化するさ」
「お前も妖怪なのか?」

 夏樹くんの言葉に、そうだよ、と鷹揚に彼女は答えた。ペロッと、赤くつややかな唇を舐める。

「お姉さん、割とメジャーな妖怪なんだけど、何だかわかる?」
「……化け猫……いや、ろくろ首ですか?」

 冬夜くんの言葉に、お、と彼女――ろくろ首の吉子さんは目を見開いた。

「正解。よくわかったね?」
「いや……食べているものを見て……」

 冬夜くんが見ているのは、彼女が頼んだ献立を見ていた。
 天ぷらにチャーハン、油淋鶏、アヒージョ。油を多く使う料理が並んでいる。

「ろくろ首は行灯の油を舐める話があったから、油を多くとる性質があるのか、と……」
「そうそう。見ての通り、燃費の悪い体でね」

 はあ、と溜息をつきながら、身体の向きはそのまま、首を伸ばす。
「うおっ」びっくりした夏樹くんと冬夜くんの身体が強ばった。
 ぐるっと店内を回って、吉子さんはカウンターにいる店長に尋ねた。

「てんちょー、ジョッキで油飲めない?」
「飲めないよー」

 そう言われて、吉子さんはシュルシュルと首を戻した。

「はー、石油王の彼氏欲しい」
「油の方で欲しがる人、初めて見たな……」

 吉子さんのセリフに、冬夜くんが思わず突っ込んだ。

「はい、おまたせ。なんちゃって精進料理だよ」

 今度は店長が運んできた。
 冬夜くんのところに、菜の花の辛子和合、五穀ごはん、わかめときゅうりの酢和え、ごま豆腐、れんこん餅の揚出し、春野菜の炊き合わせ、アワビに似せた椎茸のお吸い物、果物と寒天のデザートが置かれる。

「と、おまたせ~。夏樹くんが頼んだ、山盛り油淋鶏定食だよ!」

 こんもり積み上げられた油淋鶏に、夏樹くんは目を輝かせた。

「唐揚げだー!」
「油淋鶏だって」
「それ、同じでしょ?」
「いや、本場の油淋鶏は衣つけないし、タレ付けるし」
「そういや、竜田揚げと唐揚げの違いって何?」

 常連の皆が口々に言うのを気にせず、夏樹くんは大きな口を開けて油淋鶏を頬張った。

「~!!」

 鼻息を荒げて、パクパクと夏樹くんは食べ始める。

「うめー!! サクサクしてんのに、じゅわーってする!」
「カレーも食べる?」

 あらかじめ用意しておいた小皿を出すと、夏樹くんは元気よく「食べる!」と言った。
 分けてあげると、夏樹くんはカレーの上に油淋鶏をのせ、大きな口で食べる。
 それはもう、とっても幸せそうな顔だ。
 わかる。カレーライスとから揚げって、最高の組み合わせだよね。これは油淋鶏だけど。

「冬夜くんは?」
「俺はいいよ。小野が食べてくれ」

 そう言われて、私は頼んだ夏野菜のカレーライスを食べ始める。
 こうして、『妖怪食堂』での食事会は過ぎていった。