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「俺、あかりねーちゃんのご飯食べてみたい」

 夏樹くんの声に、私はハッと我に返る。

「あー……それは、無理なんだよね」
「え、なんで? 『ほうちょーし』なんだろ?」

 舌足らずな発音に、私は「『見習い』ね」と付け足す。
 
「私はまだ中学生だから、労働しちゃダメなんだよ」
「『包丁師』も、人間の法律が適応されるのか?」

 冬夜くんが目を瞬かせた。あるよそりゃ。ここ人間が経営してる店だし。
 ちえー、と唇を尖らせる夏樹くん。そこに、音子さんの声が飛んできた。

「店員としては無理だけど、この子の『包丁師』としての仕事が見たいなら、できるよ」
「え?」
「練習として、亡霊の子たちに食べてもらってるの」

 音子さんのセリフに、私は説明を付け足した。

「他にも、退治した妖怪を弔うためにさばいたりね」
「退治した妖怪……ってことは、こないだの大蛇か?」

 冬夜くんの言葉に、私はうなずく。

「『包丁師』の仕事は大きく分けて二つあるの。一つは料理を作ること、もう一つは殺すこと」

 私の言葉に、夏樹くんが目を見開いた。

「ヒトの領域を侵す妖怪を退治するのも、私たち『包丁師』の仕事の一つ。
 退治した妖怪の肉は、私たち包丁師の食事になるの」
「……食うの? 退治した妖怪を?」

 夏樹くんの言葉に、私はうなずく。ちょっとショッキング的なことだろうけど、私はごまかさず伝えたかった。
 そっか、と夏樹くんがつぶやいた時、音子さんが「持ってきたよ」と運んできた。

「ごろごろ夏野菜カレーと、ピンクのポテトサラダだよ」
「ピンクのポテトサラダ!?」

 私が頼んだメニューに、驚いた二人が声を揃える。

「え、なんで!? なんでピンク!?」
「ビーツが入ってるんだよ。それがポテトサラダと混ざって、ピンクになるの」
「ビーツって何!?」
「ロシアとかウクライナでよく食べられる、ボルシチとかに入ってるやつだよ」
「ボルシチって何!?」
「とりあえず食べてみる?」

 音子さんに頼んで小皿をもらい、二人によそう。
 二人は恐る恐る口元にいれた。

「……割と味はイモっぽい、か?」
「なんか、シャリシャリしてる」
「冷凍したやつを使ってるからね」

 音子さんが言うと、へえ、と冬夜くんが言う。

「妖怪に食べさせる飯って聞いたから、もっと純和食なのかと思っていたけど、そうでもないんだな」
「まあ、米だって元々は中国から来たしね。天ぷらはポルトガルだし」

 通路を挟んで隣に座る、スーツを着た女性が声をかけた。