放課後、今日は何となく部活をせずに
帰りたくなった。
適当に誤魔化して、部員たちにぺこぺこと
謝りながら先に帰ると報告した。
「おいおい、澄矢。
お前いないと試合もまともにできないん
だからな。」
サッカー部のキャプテン
3年の坂本莉士《さかもとりと》が言う。
部活での澄矢は、1年ながらに期待されてレギュラーになっている。快翔も同じサッカー部だったが、参加日数が足りず、準レギュラーになっていた。
「わかっていますよ。
先輩、今日快翔いないから俺も
本気出せませんから。」
「お前らは双子の兄弟みたいだもんな。
片方休むと全然やる気スイッチ
変わっちまうもん。」
「ですね。
んじゃ、そういうことで失礼します。」
「おう、またな。」
キャプテンは優しい。
しっかりみんなの気持ちを
受け止めてくれる。
コーチや監督に間違っていることは
はっきりと言えるタイプの性格を
していた。
羨ましいくらいだ。自分にも
そんなふうに人をまとめられる力が
あればと感じることがある。
実際には自分の身の回りのことで
手一杯なのはわかっている。
いつまでも平部員、もしくは幽霊部員に
降格しそうだ。
校庭の小さな石ころを蹴飛ばして、
校門に向かう。
駐輪場の近くに快翔の姿が見えた。
1人、自転車のサドルに触れて、
ぼんやり遠くを見ている。
話しかけようと一歩足を踏み出した。
蹴飛ばした石ころにひっかかり、
思いのほか豪快に転んだ。
「いててて…。」
後頭部をおさえて起きあがろうとした。
たくさんの生徒たちがいる校庭だと
思っていた空間は、
誰、1人いない学校へと移動してしまった。
転ぶことがトリガーになっているようだ。
ズボンのポケットに入れていたスマホの
日付を確認した。
5月19.5日三日月曜日に移動している。
未来に移動していた。
さっきまで5月13日の月曜日だったはずだ。
年間カレンダーを表示させてみると、
どの月にも三日月曜日が存在している。
「ここって一体どこなんだよ。」
スマホを持っている手をおろして、
周りを見渡す。
誰もいないと思っていたが、
駐輪場の快翔はそのままの場所だった。
サドルに手をかけて、遠くを見ている。
「快翔、快翔。ちょっと待って。
自転車押しながら、話そう。」
サドルに手をかけていたが、
ハンドルに移動させて、校門付近に
移動しようと誘導した。
快翔は無表情のまま、黙って着いてきた。
「あのさ、快翔、ここって……。」
「俺、家帰りたくないんだよね。
かと言って、部活にも参加したくない。
ちょっと、今疲れるっぽいんだわ。」
澄矢の言葉を遮るように話し出す。
いつもの快翔から聞いたことないセリフ
だった明るく暗い表情なんて見せたこと
ない。こんな無表情に近いというか
もっと暗い。
これが本音の快翔なんだろうかと
不思議で仕方ない。
「え、家に帰りたくないって
どこに行きたいんだよ。」
「海……遠いから。
川とかかなぁ。」
目の焦点がどこか合わない。
現実から逃げたい何かがあるのだろうか。
澄矢は自分も辛いことは山ほどあるのに、
快翔にも隠したい何かがあったんだと
気づく。
川の話になり、澄矢は雫羽のことを
思い出す。
「川、行くか?
水の流れる音って癒されるって
言うしな。」
自転車を押し始めた快翔に
元気になってほしいという気持ちになった。
澄矢は、1人テンション高めに川に行こうと
誘う。
学校からはさほど遠くない。
徒歩で15分のところで河川敷に行ける。
冗談を言ったり楽しい話が好きな快翔。
今は別人のようにだんまりで遠くを見ながら
歩いて自転車を押す。
河川敷までに行く下り坂で自転車に乗って
進んだ。カラカラとチェーンが鳴る。
そこにはブランコやシーソーの
遊具があった。
川の浅瀬で水切りでもしようかと
平らな石は無いかとしゃがんで探していた。
体を起こして、
快翔がいる方向に振り向いた。
「うわぁ!??!」
「ちょっとなーに?その驚き方。
失礼しちゃうわ。」
快翔だと思っていた立ち位置に
自転車は無くなっていて、
白いワンピースの雫羽がいた。
ワンピースの裾が風でふわっと
揺らいでいた。
頭には麦わら帽子をかぶっている。
「幽霊だと思った?」
帽子をおさえながら、澄矢の顔を覗く。
爽やかな香りがした。
柔軟剤の匂いだろうか。
それともシャンプーの香りかもしれない。
「そ、そんなわけないし。
石探してたからさ。」
本当は嬉しくてたまらなかった。
ごまかすようにしゃがんで石ころを
探した。
水切りをしようとすると、
雫羽は、麦わら帽子を
風で飛ばされないようにおさえながら、
青空に飛ぶ飛行機を眺めていた。
風でなびくワンピース姿の雫羽に
頬を赤める澄矢だった。
飛行機のうしろにはうねうねと飛行機雲が
できていた。
帰りたくなった。
適当に誤魔化して、部員たちにぺこぺこと
謝りながら先に帰ると報告した。
「おいおい、澄矢。
お前いないと試合もまともにできないん
だからな。」
サッカー部のキャプテン
3年の坂本莉士《さかもとりと》が言う。
部活での澄矢は、1年ながらに期待されてレギュラーになっている。快翔も同じサッカー部だったが、参加日数が足りず、準レギュラーになっていた。
「わかっていますよ。
先輩、今日快翔いないから俺も
本気出せませんから。」
「お前らは双子の兄弟みたいだもんな。
片方休むと全然やる気スイッチ
変わっちまうもん。」
「ですね。
んじゃ、そういうことで失礼します。」
「おう、またな。」
キャプテンは優しい。
しっかりみんなの気持ちを
受け止めてくれる。
コーチや監督に間違っていることは
はっきりと言えるタイプの性格を
していた。
羨ましいくらいだ。自分にも
そんなふうに人をまとめられる力が
あればと感じることがある。
実際には自分の身の回りのことで
手一杯なのはわかっている。
いつまでも平部員、もしくは幽霊部員に
降格しそうだ。
校庭の小さな石ころを蹴飛ばして、
校門に向かう。
駐輪場の近くに快翔の姿が見えた。
1人、自転車のサドルに触れて、
ぼんやり遠くを見ている。
話しかけようと一歩足を踏み出した。
蹴飛ばした石ころにひっかかり、
思いのほか豪快に転んだ。
「いててて…。」
後頭部をおさえて起きあがろうとした。
たくさんの生徒たちがいる校庭だと
思っていた空間は、
誰、1人いない学校へと移動してしまった。
転ぶことがトリガーになっているようだ。
ズボンのポケットに入れていたスマホの
日付を確認した。
5月19.5日三日月曜日に移動している。
未来に移動していた。
さっきまで5月13日の月曜日だったはずだ。
年間カレンダーを表示させてみると、
どの月にも三日月曜日が存在している。
「ここって一体どこなんだよ。」
スマホを持っている手をおろして、
周りを見渡す。
誰もいないと思っていたが、
駐輪場の快翔はそのままの場所だった。
サドルに手をかけて、遠くを見ている。
「快翔、快翔。ちょっと待って。
自転車押しながら、話そう。」
サドルに手をかけていたが、
ハンドルに移動させて、校門付近に
移動しようと誘導した。
快翔は無表情のまま、黙って着いてきた。
「あのさ、快翔、ここって……。」
「俺、家帰りたくないんだよね。
かと言って、部活にも参加したくない。
ちょっと、今疲れるっぽいんだわ。」
澄矢の言葉を遮るように話し出す。
いつもの快翔から聞いたことないセリフ
だった明るく暗い表情なんて見せたこと
ない。こんな無表情に近いというか
もっと暗い。
これが本音の快翔なんだろうかと
不思議で仕方ない。
「え、家に帰りたくないって
どこに行きたいんだよ。」
「海……遠いから。
川とかかなぁ。」
目の焦点がどこか合わない。
現実から逃げたい何かがあるのだろうか。
澄矢は自分も辛いことは山ほどあるのに、
快翔にも隠したい何かがあったんだと
気づく。
川の話になり、澄矢は雫羽のことを
思い出す。
「川、行くか?
水の流れる音って癒されるって
言うしな。」
自転車を押し始めた快翔に
元気になってほしいという気持ちになった。
澄矢は、1人テンション高めに川に行こうと
誘う。
学校からはさほど遠くない。
徒歩で15分のところで河川敷に行ける。
冗談を言ったり楽しい話が好きな快翔。
今は別人のようにだんまりで遠くを見ながら
歩いて自転車を押す。
河川敷までに行く下り坂で自転車に乗って
進んだ。カラカラとチェーンが鳴る。
そこにはブランコやシーソーの
遊具があった。
川の浅瀬で水切りでもしようかと
平らな石は無いかとしゃがんで探していた。
体を起こして、
快翔がいる方向に振り向いた。
「うわぁ!??!」
「ちょっとなーに?その驚き方。
失礼しちゃうわ。」
快翔だと思っていた立ち位置に
自転車は無くなっていて、
白いワンピースの雫羽がいた。
ワンピースの裾が風でふわっと
揺らいでいた。
頭には麦わら帽子をかぶっている。
「幽霊だと思った?」
帽子をおさえながら、澄矢の顔を覗く。
爽やかな香りがした。
柔軟剤の匂いだろうか。
それともシャンプーの香りかもしれない。
「そ、そんなわけないし。
石探してたからさ。」
本当は嬉しくてたまらなかった。
ごまかすようにしゃがんで石ころを
探した。
水切りをしようとすると、
雫羽は、麦わら帽子を
風で飛ばされないようにおさえながら、
青空に飛ぶ飛行機を眺めていた。
風でなびくワンピース姿の雫羽に
頬を赤める澄矢だった。
飛行機のうしろにはうねうねと飛行機雲が
できていた。