その日は雲もひとつないくらい青空が広がっていた。
家の屋根に巣を作るスズメたちも家族会議をしているのかチュンチュンと騒がしかった。

「ねぇ、保険証持った?」
「ううん、まだ。今入れるよ。このバックでいいの?」
「うん、それだよ。早くしてほしいよ。破水してるんだから」
「わかったよ」
 
 新川茉大は月島快翔と大学卒業後、結婚して月島茉大になっていた。
 今は、結婚して3年目。なかなかできなった待望の子どもができた。まもなく、出産予定日でまさに今破水したようだ。

「でも、待って、計画出産じゃなかったっけ。帝王切開って話はどうなった?」
「何言ってるの。その前に破水したらすぐ電話して行かないといけないんだよ」
「あ、そうなんだ。俺、男だし、そういうのわからないから」
「男でもちゃんと勉強して、良いから。早く病院連れてってよ。もう、快翔が本当に休みで良かったよ」
「……うん、それはね」
 快翔は、荷物をまとめて、すぐに車のトランクに積んだ。茉大は大きなお腹をおさえて、助手席に座って横になった。 

「無事に生まれてくれるといいよね」
「うん、もちろん。双子なんだから、本当に楽しみだよ」

 車のアクセルを踏んで、かかりつけの産婦人科に向かった。





 数時間後、

「おめでとうございます。元気な男の子と女の子ですよ! すごいですね」
 
 もう命がなくなるんじゃないかというくらいの痛みに耐えて、茉大は、出産を終えた。横でサポートしていた快翔は、助けたくても助けられない状況に冷や汗をかいて茉大より水分補給をとっていた。茉大は快翔に怒りさえも覚える。

「出て来てくれてよかった!!」
「ああ、よかったな。元気な子供たちだな」
 
 茉大は、寝返りも打ちにくいお腹の痛さに早く解放されたくて仕方なかった。快翔は、双子の赤ちゃんがぎゃあぎゃあ泣く姿が愛しくて、ずっと眺めて、額をなでていた。

「名前決めてるんでしょう」
「ああ、清矢と雫葉だな。あいつらの名前は忘れたくないからな」
 快翔は思い出を懐かしむように言う。

「漢字は違うんだね」
 茉大は、笑顔で言う。

「ああ、一緒だと怒られそうだからな」
 女の子を抱っこして、ぎゅっとさらに抱きしめた。
 茉大は男の子を抱っこして、指を手の中に入れると、自然にぎゅっと握手するように握りしめてくれた。
 泣いてたはずの2人はいつの間にか泣き止んでいた。
 

 新たな2人の世界が始まった。双子同士で今度はいつも隣同士べったりと過ごせることだろう。
 

 前世の澄矢と雫羽の心は満ち満ちていた。
 望んでいたことが叶ったのだ。


 病院の窓の外には綺麗な虹が差し掛かっていた。


 【 完 】