ざわざわと騒がしいカフェでいつものように快翔は、お客様応対していた。すぐ後ろでサポートに茉大はついていた。今日は、澄矢は休んでいた。
「茉大さん。サンドイッチ品切れになりました」
「OK。補充しないとね」
 次々とお客様が行列をなして、息継ぎする間もなく忙しかった。休みの人も澄矢以外もいたため、スタッフの仕事量が目まぐるしかった。

「「お疲れさまでした」」

 一通り仕事を終えて、出入り口付近で快翔と茉大は言い合った。

「茉大さんはお酒飲まないですか?」
「うーん、少しだけなら飲めるよ」
「飲みに行きません? これから」
「……誘ってるんだよね」
「もちろん。一緒に行きましょう。おごりますから」
「おごり? ぜひとも行きたい!」
「食いつき早いっすね」
 快翔と茉大は隣同士に並んで、近くの居酒屋で飲むことにした。さすがに人数少ない中で仕事はハードで飲みに行って発散したいという快翔の気持ちがあった。

「いらっしゃいませ! お客様は2名様でよろしいでしょうか」
「はい、2名です」
 快翔は指を2つ挙げてアピールしてリードした。たったそれだけでちょっとうれしくなる茉大だった。
「お客様2名様ご来店です!!」
「「いらっしゃいませ」」
 威勢のよいスタッフたちが大きな声で挨拶する。奥の方の個室に案内された。
「ご注文はタッチパネルでお願いします。ご注文されたメニューはロボットが運びますので、着いた際にはボタンを押すのを忘れずにお願いします。それでは失礼します」
 スタッフは説明すると個室の扉を閉めていった。

「さてと……何飲みますかね」
「ねぇ、快翔くん。なんで誘ったの?」
 頬杖をついて、茉大は聞く。咳払いをして、答える。
「いえいえ、まぁ。澄矢ばかりずるいなって……。俺にも誘う権利あるかなとか思ったり……」
「どんな権利よ。ほかにも女性スタッフいるのに」
 手を口もとにあてて笑う茉大。
「澄矢に嫉妬っすよ。俺にペラペラ話すから」
「何を?」
「えー、茉大さんのこととか、前の彼女のこととか……。あ、やべ、言わない方よかったかな」
「え、彼女? 何、澄矢くん彼女いたの?」
「……」
 あまりの話の食いつきに引き下がれないなと思った快翔は、すべて本当のことを話してしまう。なんだか、相手の悪いところを言って、自分のマウントを上げてるなと話してしまってから気づくが、もう手遅れだった。

「茉大さん。このことは、澄矢には絶対言わないでもらっていいですか?」
「あ、うん。別に。私は気にしてないんだけどね」
 その言葉を聞いて、快翔は少しがっかりする。澄矢の嫌なところをアピールしたつもりが全然効果がないことにがくっと体を落として、顔を隠した。
「快翔くん。大丈夫?」
「あ、いえ、大丈夫っす。ビールにしますか?」
「私はなんでも。付き合うよ」
「んじゃ、1杯目だけビールであとは好きなものじゃんじゃん飲んじゃいましょう」
「やったー。おごりだもんね」
 手を挙げて、喜ぶ。先輩だという立場を忘れる茉大だった。
「茉大さん。素直っすね」
「いやいや、今月支払いがピンチでね。助かるわぁ」
「支払いって一体何を買ったんですか」
「新しいパソコン。前の壊れちゃってさ。大学のレポート書くのに必要でしょう。だから急いで買ったのよ」
「それは大変でしたね」
 何気ない話を次々と切り出す快翔。茉大は自然の流れで会話が次々と弾む。
時間を忘れて、バイトの愚痴や大学の講師の話が長いなど、いろいろ言っていたら、いつの間にかテーブルにうなだれていびきをかいて寝てしまった。快翔は、茉大のたらりと頬に垂れた髪を救いあげて、よけてあげた。
「うーん……」
 寝言を言い始めた。
(このまま、俺の彼女にはなってくれないのだろうか……)
 そんなことを考えながら、快翔は茉大を背負って、居酒屋の外に出た。

 夜空には煌々と満月が輝いていた。
 その頃、熱を出して、横になっていた澄矢は大きなくしゃみをして、また眠りについた。