澄矢は、大学もカフェもバイトも通常運転で滞りなく、平和に過ごしていた。
大学の学食で快翔と一緒に日替わり定食を食べていた。

「ここの定食コスパいいよな。安いし。学生に優しい!」
「だよな、ボリューム感あるし、腹いっぱいになるよな」
 
 あまりにもお腹がすいていたのか、快翔は、かっこんで白ごはんを食べていた。
 サクサクのとんかつがジューシーだった。

「そういやさ、快翔って、エジプト留学行きたいって言って                                                                                                                                                                         なかったか?」
「あ……ああ、そうだったけどな。それ、やめたんだ。親が予算出せないっていうのと、まずは大学卒業してからでもいいじゃないかみたいな話になって、やる気あるならそれからでも遅くないって話になってさ」
「ほぉーそういうことだったのか。最初、同じところ受験するってなった時さ、聞こうと思ったけど聞けずにいたから、今聞けてよかったわ。すっきりしたわ」                                                      
 
 味噌汁をずずっと飲んだ澄矢は、そっと胸をなでおろした。
 
「そうだったんか。別に気にせんでいいだろ。てかさ、お前はどうなんだよ」
「へ?」
「茉大先輩の話」
「んーーー」

 話したくない思いが出たようで、視線をそらした。

「明らかに雫羽ちゃんにそっくりなんだろ。俺は、詳しく雫羽ちゃん知らないけどさ。澄矢がそういうからそうなんだろうなって思うんだけど、茉大ちゃんと付き合うわけ?」
「……まだわからない」
「付き合うのいいけど、傷つけるなよ。元彼女とそっくりって思ったら、ショック受けると思うんだよね。間違って名前呼んだりしたらさ」
「浮気してるとか勘違いされる?」
「うん、かもな」
「亡くなってても?」
「悲しい話になるだろうって」
「確かに……同情で付き合うのも嫌だよな」
「そりゃそうだろ」
 快翔は、完食した定食に手を合わせて挨拶する。澄矢はもやもやした気持ちを残したまま話を終えた。
「ごちそうさまでした」
「うわ、早いな。食べるの。俺も食べないと……。次の授業のレポートまだ仕上げてないんだった」
「マジかよ。熊谷講師は怖いぞぉ」
「だよな。急いでやらないとな」
 食べてから課題レポートの記入でランチタイムが終わる。      

◇◇◇

 「いらっしゃいませ。ご注文はいかがいたしますか」
 
ご機嫌な茉大は営業スマイルをマックスにお客様対応をしていた。

「茉大さん、今日。めっちゃ、ご機嫌ですね」

 後輩の宮島恭輔《みやじまきょうすけ》が澄矢に食器の洗い物をしている声をかけ
た。

「え、そうかな。よく見てるね」
「何言ってるんですか。ここのバイトで一番人気なんですよ。茉大さん。みんな可愛いって言ってるんですから。彼氏は作らないってガードかたいって思うんすけどね」
「うそ、それ本当? 彼氏作らないってどういうこと?」
「さぁ? 詳しくは教えてくれないんですけど、プライベートは分けてるからって周りのみんな断られたって言ってましたよ。澄矢さんはどうでしたか?」
 「え、俺? 俺は別に……」

 嘘ついてるとばれないように作業に熱中した。そこへバイトリーダーの佐藤美和子《さとうみわこ》が2人を睨みつけた。

「あ。すいません。仕事に集中します」
「そうですね。宮島くん。私語は休憩時間にお願いしますね」
「はーい」
「……」

 澄矢は怒られないように今の作業に集中した。注文が入ったバニラフラペチーノのクリームがうまく出せなくて、あちこちに散らばって、慌ててタオルで拭いた。動揺してしまってることに佐藤に見つかった。背中をポンとたたかれる。

「澄矢くん、恋バナもねぇ。したくなるのわかるけど、き・を・つ・け・て。あなたは先輩でしょう」

「は、はい。失礼しました」

 冷や汗が背中に大量に流れる。その姿を見た茉大は状況を読めずに疑問符を浮かべた。次から次へとお客は途切れなかった。